夏の甲子園、4強チームのMVPは? 強打の四番や絶対的エースが候補に

楊順行

ここまで圧巻の奪三振ショーを見せている星稜・奥川恭伸 【写真は共同】

 奥川恭伸(星稜/石川)はすごかった……。智弁和歌山との3回戦は、タイブレークにもつれた延長14回を3安打1失点、自責0の実質完封だ。星稜は、この球史に残るといってもいい名勝負を制すると、準々決勝ではその奥川を温存して仙台育英(宮城)に17-1と圧勝。準優勝した1995年以来のベスト4である。

 というわけで夏の甲子園は、4強が出そろった。星稜以外はいずれも夏初めてのベスト4で、どこが優勝しても初の全国制覇という顔ぶれ。高校野球では、都市対抗野球大会でいう橋戸賞(最優秀選手)のような個人賞はないが、ここからは独自に各チームのMVP候補を探してみよう。

四番の責務を果たす履正社・井上広大

井上広大は「必ずチャンスを生かすのが履正社の四番」を体現している 【写真は共同】

 まず履正社(大阪)。霞ケ浦(茨城)との初戦、大会屈指の好投手・鈴木寛人からの3本を含め、1試合5本塁打という史上2校目の大会タイ記録を樹立した。履正社というと山田哲人(東京ヤクルト)ら強打者を輩出しているが、チーム自体は手堅い野球のイメージ。この夏の猛打は、センバツで奥川に3安打、17三振で完封されたところからスタートしている。それ以後はトレーニングをいっそう強化し、打撃練習では「対応力」が合言葉だ。各ゲージごとに「低い打球」「飛距離」などとテーマを設定し、状況に応じたバッティングを磨く。

 関東一(東東京)との準々決勝で、6回、走者一掃の適時二塁打を放ったのが四番の井上広大だ。大阪大会では4本塁打を放ち、高校通算46本として甲子園に乗り込んできたプロ注目のスラッガーは、「もともとはじっくり球を見るタイプ」という。だが、センバツでの敗退後に考え方を改めた。初球からでも積極的に振り、カウントごとにコースや球種を考えていく。変化球狙いなら球を引きつけることになるが、スイングスピードが向上した分、仮にストレートがきても差し込まれることが減った。この大会も好調で、4試合17打数8安打、うちホームランが2本。さらに11打点は特筆で、「必ずチャンスを生かすのが履正社の四番」という自身の言葉を体現している。

明石商の四番・安藤碧は一躍MVP候補に

明石商の安藤碧は準々決勝で本塁打を放つなど、一躍MVP候補に 【写真は共同】

 大量得点が目立つ今大会、本塁打数は準々決勝終了時点で46本。一昨年は史上最多の68本、昨年は51本と初めて2年続けて50本を超えたが、それが3年になりそうな勢いだ。

 明石商(兵庫)の四番・安藤碧も、八戸学院光星(青森)との準々決勝でそのうちの1本を放っている。センバツで1本塁打、兵庫大会でも2本塁打14打点を記録していたが、この大会では準々決勝まで9打数3安打も打点0。それが準々決勝では、先制打と3ランの4打点で、MVP候補に躍り出た。

 センバツの準々決勝で、先頭打者&サヨナラ本塁打という快挙を成し遂げた来田涼斗も、大一番で力を発揮するか。来田と同じ2年生のエース・中森俊介も、「連投には体力が不安」(狭間善徳監督)だが、ここからが正念場だ。

中京学院大中京は藤田健斗、元謙太に注目

中京学院大中京の四番・藤田健斗の打撃は、捕手らしい洞察力が光る 【写真は共同】

 中京学院大中京(岐阜)も、やはり四番が存在感を見せている。U18日本代表第1次候補の藤田健斗は、北照(南北海道)戦では7回に逆転タイムリー、東海大相模(神奈川)戦も7回に同点打。東海大相模戦で光ったのは、捕手らしい洞察力だ。「それまで、外中心の配球。踏み込んでいくことを徹底」し、きわどい球をカットしたすえに、甘く浮いたスライダーを左前にはじき返した。

 チームは不思議なことに、決まって7回に複数得点を挙げ逆転に結びつけている。作新学院(栃木)との準々決勝でも7回に2点を返して1点差に迫ると、8回に元謙太のグランドスラムで試合をひっくり返した。この元は投手兼外野手で、投げてもリリーフとして、チームのピンチの芽を摘んできた。今後の活躍次第ではMVP候補か。

スカウトもうなる、星稜・奥川恭伸

 そして、星稜。3回戦の智弁和歌山との死闘では福本陽生がサヨナラ3ランを放った。それに加えて準々決勝の仙台育英戦、初スタメンでグランドスラムを放った今井秀輔、2アーチの内山壮真の2年生コンビら、日替わりでヒーローが出ているが、なんといっても奥川だ。大会前は、石川大会以降肩を休めたため、「フォームがばらばら」だったが、始まってみれば旭川大(北北海道)を3安打9奪三振で完封。圧巻だったのは智弁和歌山との3回戦。序盤から「球場のムードを味方につけよう」と全力で飛ばし、自己最速タイの154キロをマーク。延長に入っても球威は衰えない。しばし一緒に見ていた某球団のスカウトは、「変化球も含めてすべて低めに制球されている。打てないよ」とうなった。

 4回には、黒川史陽から142キロのフォークで三振を奪うなど、変化球もキレキレで14回を3安打23三振。足がつって途中降板した昨夏の反省から、塩分や経口補水液の補給に配慮し、14回165球を投げきった。最後の打者も150キロで中飛と、スタミナも問題ない。ここまで、救援1試合を含めて25回3分の1を投げて8安打35奪三振、自責0の防御率0.00だ。秀逸なのは制球力で、与えた四球はわずか3(死球は2)。速球投手にありがちな制球難とは無縁で、むしろつねに投手有利のカウントに持ち込む投球術も奥川の大きな武器だ。

 延長で記録した23奪三振は歴代2位タイ。1位は1958年に板東英二(徳島商)がマークした25、2位に並ぶのは73年の江川卓(作新学院)だが、板東は18回、江川は15回での記録。奪取率では昭和の怪物・江川をもしのぐ奥川は、令和の怪物を襲名していいかもしれない。3回戦から中2日となる中京学院大中京との準決勝には先発してくるはずで、またもや奪三振ショーを見せてくれるのではないか。

 はたして、準決勝を勝ち上がるのはどこか。そしてMVPは……。これはまったく個人的な願望ではあるが、履正社と星稜、センバツ初戦で当たった両者の頂上決戦を見てみたい。
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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