富島、誉、飯山…それぞれの初出場物語 甲子園で感じた「違い」と「幸せ」

楊順行

飯山:雪を言い訳にせず、すがすがしく

「雪国だから弱い、とは思われたくない。雪を言い訳にしたくなかった」

 飯山(長野)の大川陸主将の思いだ。

春夏通じて初出場を果たした飯山。名門・仙台育英相手に大川主将のタイムリーで先制点をたたき出す 【写真は共同】

 07年、飯山南と飯山照丘が統合して飯山となり、14年には飯山北も統合した。位置するのは、新潟県に接する県北東部の飯山市。国内屈指の豪雪地帯で、1年の約3分の1は雪に覆われ、最深積雪の平均は平地で176センチだ。

 だがそれをハンデとせず、冬には長靴で走る雪上ダッシュが恒例だ。もともとスキー経験者が多く、しっかりしていた足腰がさらに鍛えられる。また、動きが思うようにいかないため、1歩目を早く切る練習にもなる。踏み固められた雪を練習スペースにすれば、一石二鳥だ。さらに、冬の間に5万スイングのノルマも全部員が達成し、打力も向上。それが、ノーシードからの初めての甲子園につながった。

 17年に赴任して部長となり、昨年10月に就任した吉池拓弥監督は言う。

「雪国だからできる練習もある。ハンデと捉えず、粘り強さで戦っていきたい」

 初めての進出だった長野大会の決勝、延長10回のサヨナラ勝ちこそ、まさに粘り強さの象徴というわけだ。

 甲子園の登場は、第4日第2試合。地元からはバス65台、全校生徒621人のうち約500人を含むおよそ3000人が、アルプススタンドをぎっしりと埋めた。相手は、49校中最多の28回出場を誇る仙台育英(宮城)。その名門を相手に飯山は、3回2死二塁から大川の適時打で先制に成功した。沸き返るスタンド……。

 だがその裏、4点を失って逆転されると、5回には1イニング全員得点を記録されるなど、3投手の必死の継投も結果は1対20の大差。「飯山らしく先制パンチは出しましたが、やはり力強さなど、全国とのレベル差を感じました。5失策とか、甲子園は普段起こらないようなプレーが出る場所なんですね」とは吉池監督だ。

 ただ、記念すべき甲子園初得点をたたき出した大川主将は、こうも言うのだ。

「最後はこういう形で終わってしまいましたが、3年間幸せでした。いまはすがすがしい気持ちです」

 3校の、初出場物語。それぞれの第2章を楽しみに待つ。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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