連載:真夏の日本一はどう決めるべき? 現場からの生の声

「万全で臨めない総体は意味がなくなる」 青森山田・黒田監督が夏を前に伝えたい事 

松尾祐希

05年度にインターハイを制した実績を持つ青森山田の黒田監督は、現行の大会をどのように見ているのか 【松尾祐希】

 今年で54回目を迎える全国総合体育大会(インターハイ)の男子サッカー競技。真夏の最強王座決定戦を通じ、多くの高校生たちが飛躍を果たしてきた。古くは本山雅志(東福岡/現ギラヴァンツ北九州)。近年では柴崎岳(青森山田/現デポルティーボ・ラ・コルーニャ)や杉岡大暉(市立船橋/現湘南ベルマーレ)などがインターハイで脚光を浴びたのは記憶に新しい。

 今年は沖縄県で開催され、7月26日(開会式は25日)から行われる。ただ、長きに渡って伝統を紡いできた夏のひのき舞台も、ここ数年は酷暑の影響で選手たちへの負担が大きくなっている。通常よりも10分短い35分ハーフとはいえ、7日間(1日の休養日を挟んでの3連戦)で最大6試合を戦う日程は体力的に厳しいと言わざるを得ない。各チームはコンディション調整や熱中症対策にほん走しているが、現状ではいつ事故が起こってもおかしくないだろう。

 現在の問題点と改善策を知るべく、高校サッカー界に長年携わってきた名将たちを直撃。2回目の今回は昨年度に冬の選手権を制し、2005年度にインターハイを制した実績を持つ青森山田の黒田剛監督に話をうかがった。

万全な状況で挑めないので「やる意味がなくなってくる」

――暑さが年々厳しくなっています。真夏に行われるインターハイをどのように捉えていますか?

 地球の温暖化が進んでいる中で、インターハイは逆行した流れで行われていると感じています。今年は沖縄で開催されますが、太陽が照りつけて、地元の人ですら日中は外に出てこないというのに、試合はその真っただ中。日本全体で考えても水分補給を行ったとしても危険であり、東京都の少年サッカー連盟は7月、8月の公式戦を禁止しました。事故を未然に防ぐ動きが出るのは当たり前です。健康管理についてはもっと考えるべきですね。

――実際に現行ルールでは3連戦、1休み、3連戦の日程で、試合は35分ハーフです。スケジュールのメリット、デメリットはどうお考えですか?

 35分ハーフで即PKのレギュレーションで、しかもシードの12校は初戦がないので体力的なアドバンテージがあります。となると、番狂わせは起こりやすい。その一方で夏に35分以上の試合を行うのは現実的ではないかもしれないですが、(普段は90分で戦っているので試合時間が)短くなったからいいわけではないと考えています。

 実際には地域的なところも踏まえ、身体には負担がかからないように大会を運営する責任があるので、仕方がないかもしれませんが。なので、万全な状況で挑める大会ではないし、インターハイをやる意味がどんどんなくなってくるようにも感じています。

――チームでも暑さを乗り越える上でかなり工夫をされています。だからこその苦労があると思うのですが。

 熱中症対策としては体質改善や足をつらないようにするために、サプリメントを飲ませています。でも、かなりお金がかかるんです。あとは現地で製氷機を用意してくれているところもあるのですが、足りなかったりするので独自で氷水を作って活用する場合もあります。

 なので、現地で氷を調達する作業が大変。小さい街だとコンビニにも売っていない状況なので、氷すら手に入らない状況になる場合もあります。本当に過酷ですよね。あとはユニホームを冷やしているのですが、水分を含めずに冷やすのがかなり難しい。クーラーボックスをプラスで1つ、2つは持っていかないといけないので、準備の面でも大変です。

「福島のJヴィレッジや北海道での開催は良い案」

18年に営業が再開された福島のJヴィレッジでの開催も議論されている 【写真:ロイター/アフロ】

――インターハイは連戦なので疲労度が通常の試合とは全く異なります。負傷者が出る可能性がありますし、累積警告で出場停止になる場合も大いにあります。ただ、インターハイの登録人数は17名なので、アクシデントが起こればベンチ入りの数が減ってしまいますよね。

 健康面を考えれば、20人ぐらいの登録人数にしたい。熱中症のリスクがありますし、今の時代に逆行していますよね。

――もし、けが人や出場停止が出れば、14人ぐらいで戦うこともありますし。それでは厳しいですよね。

 そうなんです。あとは夏に強豪校同士が3回戦ぐらいまでに激闘すると、余力が残っていないことが多いんです。なので、ずば抜けた力がなくても優勝できる可能性もあります。2年前(2017年度)に私たちは東福岡と2回戦で対戦し、その際は良い試合をして勝ちましたが、次の3回戦で前橋育英に負けました。

 でも、その前橋育英も流通経済大柏に準決勝で敗れました。最初に苦労したチームは体力が残っておらず、激しい試合をするのでイエローカードも累積します。けが人が出るような戦いをした上で暑い時に試合をしているので、最後まで余力は残らないんですよね。

――例えば、福島県のJヴィレッジで開催する案も一つの方法だと思います。実際に、今年5月にはJFA(日本サッカー協会)の理事会でインターハイのあり方を議論する動きがあったと聞きました。同じ会場で毎年やれば、それだけノウハウが蓄積されていきますし、運営側も準備がスムーズになります。そうした変化が必要だと考えていたのですが、黒田監督の中で何か案はありますか?

 涼しい場所で試合ができるのがベストですよね。ただ、Jヴィレッジも街から離れているのでコンビニなどで氷を手配できるのか、選手たち用などのお弁当は手配できるのか。そこを考えて対応できるのであれば問題ないですし、われわれは東北のチームなので福島だとありがたいです。

 ただ、西日本や九州のチームからすれば、移動の負担があるので「なんでそこまで行かないといけないのか」という話になってくるかもしれません。開催地を固定すれば、どこかの地域が苦しくなりますが、Jヴィレッジがもう1回復活してやろうというのであれば、いい案だと思います。もちろん、全チームが集結して試合ができるグラウンド数と宿泊場所の確保ができるのが大前提ですけれどね。

――確かに涼しいですし、仮に暑さがあってもカラッとしていて過ごしやすいですよね。

 Jヴィレッジ以外では、北海道開催も絶対に良いと思いますね。グラウンドもたくさんあるので。全国大会を帯広、室蘭、函館、旭川などの場所でブロックごとに実施し、最後は札幌に集結して、ベスト8やベスト4以上をやる形でも良いと考えています。1箇所に負担がかからないように分散して、実施すれば良いのではないでしょうか。

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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