ラグビーにおける「レフリー」という仕事 審判として参加するラグビーW杯への思い
日本ラグビー協会A級レフリーである久保修平が登壇し、講演が行われた 【スポーツナビ】
今回は「レフリーの視点でのラグビーW杯2019とは」というテーマのもと、公益財団法人日本ラグビー協会A級レフリーである久保修平氏を招き、ラグビージャーナリスト・村上晃一さんの進行で講演が行われた。
日本人史上4人目となるマッチオフィシャルに選出
2016年から19年の間に数度行われたレフリーキャンプの参加者は約40名。その中から選出されるのは19名のみというのだから、なかなかシビアな世界だ。以前は参加国から選出されていたものの、現在は「チームとしての一貫性を保ち、より高いクオリティーでのレフェリングを行う」という観点から、限られた国から選出されるようになった。
今回のW杯では、フランスから最多となる5名が選出されている。フランスの国内リーグであるトップ14のレベルが非常に高く、「日頃からタフなゲームをさばいている」ことが高評価につながったようだ。ちなみに、久保氏を含むアシスタントレフリーの出番は、準々決勝までと決められており、準決勝から決勝までは12名のレフリーがそれぞれ試合をさばくことになっている。
W杯に向けて、レフリーたちが基準としている要素は4つ。Collaboration(協力し合う)、Accurately(正確な判定を心掛ける)、Consistency(判定に一貫性を持つ)、そしてUnderstandable disition(理解してもらえるような判定)となっている。久保氏が特に強調していたのは4つ目の「Understandable disition」。大会を前に「見ている人が納得できる、理解してもらえるような判定を心掛けたいと思っています」と抱負を語った。
実際に行われているユニークなトレーニングとは?
実際にスーパーラグビーで笛を吹く久保氏(写真)。ユニークなトレーニングを紹介してくれた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
レフリーが経験するのは、こうしたフィジカル面のトレーニングだけではない。欠かせない要素である「メンタル」についても、久保氏は実際に行われているユニークなトレーニングを紹介してくれた。
「ピッチ外での対応力を付けるという意味で、選手役を入れたロールプレイングを行うこともあります。試合前に選手の控え室を訪れて、試合に関する説明をする機会があるのですが、実際にそういった状況を作り出すことで、本番となる試合での対応を確認したりします。ちなみに選手の役をしてくれるのは、レフリーとして第一線で活躍していた先輩たちで、しっかりと演技をしてくれます(笑)」
ここで確認するのは、試合前の対応だけではない。久保氏は続ける。
「実は試合後の対応も練習したりするんです。例えば、同じホテルにいる監督、または選手が朝食の会場で私たち(審判団)を見つけて、判定に意義を唱えてきた場合の対処なども確認をします。まずはきちんと相手の話を聞いてコミュニケーションを取る。ただ話を聞きすぎてもダメで、バランスが非常に重要になってきます」
「メンタル」はレフリングに大きな影響を与える要素のひとつだ。試合の主役はあくまで選手たちであり、レフリングにおいては「選手に気持ちよくプレーさせる」ことが何よりも重要になる。選手の気持ちをどれだけ汲み取りながらジャッジできるか。そのために、自身が笛を吹くチームの試合を観察し、チームのスタイルを理解するよう努めているという。
最後に、久保氏は自らの「レフリー」という仕事についてこんな言葉で講演を締めくくった。
「レフリーという職業は、なかなか褒めてもらうことはありませんが、だからこそ続けられているのかもしれません。レフリーという仕事に終わりはないし、常にもっと良くなっていきたいと思い、努力をしています。試合をさばく上では、引き出しが多ければ多いほどいいと思いますが、その開け方を間違わないようにしなければいけない。常にその場に応じた対応が求められる職業だと思います」