岡崎がミラクルレスターで見いだした役割 必然だったプレミア優勝、そして葛藤へ
岡崎の守備は「勝利の方程式」の一角に
試合に出場するため岡崎が行った「前線からの守備」。チームメートとの相乗効果によって、チーム最大のストロングポイントとなった 【写真:アフロ】
ちょうど、このシーズンの開幕前、岡崎はドイツ1部マインツからレスターに移籍してきた。だが、岡崎を連れてきたナイジェル・ピアソン監督が、加入発表の4日後に解任。イタリア人のクラウディオ・ラニエリ監督を新たに迎えたが、開幕前は戦い方や人選、フォーメーションも定まっておらず、チーム内は混乱しかなかった。プレシーズンマッチで下部リーグの相手に苦戦するなど、残留争いは避けられないように見えた。また、岡崎も4人でFWのポジションを争うことになっていた。
ここでポイントになったのが、岡崎が実践した「前線からの積極的な守備」だった。「誰もやっている選手がいなかったから」と、前線からのプレッシングを自身のアピールポイントに掲げて実践し、ポジション争いで優位に立とうとした。この狙いはうまくいった。プレシーズンマッチで得点を挙げたこともあり、岡崎は開幕スタメンの座を獲得したのだ。
実際、岡崎の守備は非常に効いていた。相手のパス回しをサイドへ押し流すように追いかけ、パスコースを限定していく。チームメートは「お前の守備、すげえいいな」と目を丸くしたという。
7節からMFエンゴロ・カンテ(現チェルシー)が中盤のセントラルMFに初めて先発起用されると、レスター最大の武器となる「プレッシングサッカーの礎」ができた。岡崎が前線から敵を追いかけ、中盤底のカンテが相手ボールを回収。アメリカン・フットボールのクォーターバックのように縦パスを供給するMFダニー・ドリンクウォーター(現チェルシー)を経由し、最後はバーディーやマフレズがゴールを奪うという「勝利の方程式」が完成したのだ。
岡崎は、試合に出場するために「前線からの守備」を行った。「誰もやっている選手がいなかった」というアグレッシブな守備やプレスは、言ってみれば、レスターの足りないところでもあった。献身的な守備がチームの弱点補充につながり、チームメートとの相乗効果によって、チーム最大のストロングポイントに化けた。つまり、岡崎の思考と洞察の深さが、レスターの躍進に一役買ったということだ。
それだけではない。レスターの戴冠を可能にした要因が、チーム内で複数生まれていた。
例えば、スカウト(当時の肩書はアシスタントコーチ)のスティーブ・ウォルシュが連れてきたバーディーやマフレズ、カンテ、岡崎といった面々がピッチ上で躍動したのは、そのひとつ。
また、プレッシングサッカーからショートカウンターを繰り出すことで、快速FWバーディーは得点を量産した。プレミアリーグ新記録となる11試合連続ゴールを樹立し、最終的にリーグ2位の24ゴールをたたき出した。
さらに、守備を重視するイタリア人のラニエリ監督の指導で、チームの守備は徐々に安定していった。ピアソン前監督の下ではイケイケのサッカーを志向していたが、ラニエリのおかげでシーズン後半戦は不用意な失点が減り、しぶとさを身につけた。
理想と乖離(かいり)していった岡崎の役割
岡崎が見いだした“役割”は、皮肉にも自身を悩ませていった 【写真:ロイター/アフロ】
さらに、岡崎はレスターの強さについて次のように言葉を続けた。
「『すべてがハマる』というのはこういうことかと、目の当たりにしましたね。どんどん選手が自信をつけていき、自分の持っているものを全部出したじゃないですか。シーズン前半戦では、前半の出来がよくなくても、後半にバッと勢いよくいったら、点が取れるとか。そういうふうに結果を積み重ねていくことによって、自信をつけていった。選手たちはそれぞれ自信を持っていたが、そこからハードワークという武器の下に、チームとしてひとつにまとまっていったと思う」
「強さの秘訣は、やっぱりバランスの良さ。それぞれの選手に強みがある。センターバックのウェズ・モーガンとロベルト・フート(引退)は、ヘディングで跳ね返すのが強い。だから、クロスやCKで失点しない。そこは本当にデカイ。シュートも、絶対に体をぶつけて止めてくれる。このチームは1点取られたら終わりなので、彼らの存在は大きい。ボランチのドリンクウォーターも“つなぐチーム”にいたら(主力としてフル稼働できるか)分からない。でもこのチームの戦術だったら、確実にヒットする。エンジー(=カンテ)は一番重要な選手です。もちろん、バーディーとマフレズがいなかったら、このカウンターサッカーで勝っていけなかった。
その中で俺の役割は、ボールを拾って、拾って、最後のところでゴール前に顔を出して危険なプレーをすること。みんな、それぞれにちゃんと役割があって、そのポジションや役割にフィットする選手が集まっている。選手個々のクオリティーが良いというより、このサッカーにフィットする選手が集まっているイメージです」
ただ、このシーズンに手にしたリーグ優勝のインパクトは、あまりに大きすぎた。
試合に出場するために行った「献身的な走り」や「ハードワーク」が、岡崎のプレースタイルとして完全に定着してしまったからだ。本当なら、岡崎はストライカーとしてゴール数で勝負したかった。しかし、守備をこなす「ディフェンシブ・フォワード」のイメージが強すぎるあまり、チーム内での役割は、そこから離れることができなくなった。
それが、岡崎を徐々に悩ませていく。ゴールが欲しい展開でピッチから下げられたり、リードしている際に、試合終盤のクローザーとしてベンチから投入されることもあった。自身の思い描く理想像と、求められる役割・タスクとの距離が、少しずつ埋め難いものになっていった。
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