高橋尚成が語る「イチローの抑え方」 詰まらせようと思わないことが大事
イチローと松井との違い
高橋尚成はイチローを6打数ノーヒットと完全に抑え込んだ(写真はエンゼルス時代) 【写真は共同】
イヤなバッターは結構いましたよ。「よく打たれたな」と思うのは、元阪神の金本(知憲)さん。井端(弘和=元中日ほか)なんかは高校、大学、プロとずっと対戦していて、打たれた記憶しかない(苦笑)。あと、宮本(慎也=現東京ヤクルトヘッドコーチ)さん、(駒沢大学の)後輩・新井(貴浩=元広島ほか)にもよく打たれましたね。アメリカに来てからは、ダン・アグラ(元マーリンズほか)。打率はそんなに高くないんですが、いいときはホームラン30本超打つ右のパワーヒッターで、彼には結構打たれました。
――巨人時代の同僚・松井秀喜さん(元ヤンキース)はどうでした?
日本時代も練習の1カ所バッティングとか、紅白戦とか。ヤンキースが東京ドームに来て開幕戦をしたときにも巨人と試合をして、たまたま先発させてもらって対戦しているんです。日本に限って言えば、8打席対戦して6安打、ホームラン5本打たれているんですよ。
――それはかなり、打たれましたね。
そうなんです。だから日本では、松井さんと同じチームで良かったです。アメリカではたまたま抑えられましたが、アメリカでもライトフライを打たれたとき、「あ、これはやられた」と思ったことがあったんですよ。ギリギリホームランかな、という大きなフライ。でもアナハイム・スタジアムはライトが結構広いんで、入らなかった。あれは東京ドームだったら、たぶんホームランでしたね(笑)。
――イチローさんと松井さんは、醸し出す雰囲気がまったく違うのでしょうか。
懐が深いなと思うのは松井さんのほうですね。イチローさんのほうが、なんでも手を出してくれる……なんでも打ちにくる感じがあります。
――比較するのは恐縮ですが、高橋さんにとってはどちらが怖いバッターですか?
こんな言い方をするのはおこがましいんですが、やはり松井さんに打たれたなというイメージが強いので……。結果的に、イチローさんのほうを抑えているから、あえて比較するなら松井さんのほうが怖いです。でもイチローさんが醸し出す雰囲気も、ピッチャーからしたらかなりイヤですよ。
基本はアウトロー勝負
カブスでは藤川球児(写真左)とチームメートだった 【写真は共同】
インコースの球でもレフトのヒットゾーンに運ぶ技術は、非常に高いんじゃないかと思います。インコースの球をライト方向に、いい当たりを打たれるのは仕方ないんですよ。でもセンターからレフトのほうに強い打球が打てるのは、技術の高さを物語っていますよね。もちろん詰まってショートとレフトの間に落ちる打球もありますけれども。
――それはどういった技術なのでしょう?
右肩が開かないということですよね。右肩が開かずに、バットが内から出て、ボールの内側を打つイメージが、イチローさんにはありますよね。普通のバッターだったら、ボールが切れていってファウルになるところですが、そうならずクリーンヒットにできるところ。わざと詰まらせてヒットにする技術もあるんじゃないでしょうか。
――ピッチャーにとっては、イヤですよね。それでもイチローさんとの対決はワクワクしましたか?
とても楽しみでしたよ。むしろ、どういうバッティングをするのか、自分のこのボールに対して、どういう反応、どういう対応をするのか。ピッチャーをワクワクさせてくれるバッターでした。
――では、もう一度イチローさんと対戦できるのなら、どう攻めますか?
もう、アウトコース一辺倒ですよね。詰まらせようとか、そういうことは考えず、外にしっかり投げ切る。それでもし外の対応がよくなってきたら、インコースに1球ボール球を見せてから、また外に戻るという感じです。基本はアウトローですね。
――では改めて、1球目からお願いします。
1球目はアウトローに、ストレート系を投げます。その1球目の対応を見て、もう1球ストレートを外にいくのか、スライダーでいくのか変わってきます。
――すると2球目は?
やはり、外ですね。一番の理想は、三振を取ったときの攻め方。だから1球目外、2球目外で、3球目に低めのスライダーで振ってくれればラッキー、という。
――ちなみに今、メジャーで楽しみなバッターは誰ですか? 高橋さんが現役だったら対戦してみたい、イチローさんのようにワクワクさせてくれそうなバッター。
今でいったら、エンゼルスのマイク・トラウトですかね。あとは同じチームになりますけど、大谷翔平。どんなバッティングをするのか、どこまでボールを飛ばすのか、楽しみです。なかなか日本人で、あそこまでボールを飛ばせる技術のある選手はいませんよね。そこはメジャーの選手も認めているので、ぜひ対戦してみたいですよ。
高橋氏が考えたイチローへの配球図 【スリーライト】
高橋尚成(たかはし・ひさのり)
【写真提供:ホリプロ】