謎に包まれた森保ジャパンを『ゲームモデル』で読み解く

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森保ジャパンはどんなサッカーを目指しているのか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 フットボリスタ5月号では、欧州サッカーで急速に広まっているポルトガル発祥の戦術的ピリオダイゼーション理論にひもづく『ゲームモデル』という新たなチーム作りを特集した。その概念に基づき、東大ア式蹴球部ヘッドコーチの山口遼氏に森保一監督率いる日本代表の分析をお願いした。謎に包まれた森保ジャパンを“欧州サッカーの基準”に翻訳して解き明かす。

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日本代表に『ゲームモデル』は存在しない?

 6月に開催が迫るコパ・アメリカに招待チームとして出場する日本代表。アジアカップなどとは異なり、コパ・アメリカではクラブに対する強制招集権限がないので、メンバーのやり繰りがさまざまな意味で注目を集めるが、UEFAネーションズリーグの開催に伴い、ヨーロッパの代表チームとの対戦が困難になってしまった日本代表にとって、南米のチームと親善試合ではない真剣勝負を行える今大会は、今後の強化に向けて非常に貴重な機会となる。

 今回は、そんなコパ・アメリカを目前に控えた日本代表のゲームモデルを分析する記事なのだが、初めに言ってしまうと、これまでの日本代表の試合を見て判断する限りでは、明確なゲームモデルはおそらく存在していないのではないだろうか。例えば、左サイドMFに原口元気が出場した試合と、中島翔哉が出場した試合では、攻撃、守備ともに明らかに起こる現象が大きく異なっていたり、同じ選手がプレーしても局面によって判断が異なっていたりと、チームとしてかなり属人的、あるいは基準が曖昧な印象を受けるのだ。しかし、だからと言って起用される選手に応じてまったくバラバラのサッカーをしているかと言われればそういうわけではなく、むしろ日本全体に漂う「不文律」のような、暗黙のゲームモデルは存在している。

 そこで今回は、あくまでピッチ上で起った現象からの逆算になるが、「戦術的ピリオダイゼーション」の考え方に基づき、現在の日本代表の「プレー原則」や「ゲームモデル」を類推する。それと比較することで、実際の日本代表が抱える問題点を分析してみようと思う。

“日本らしさ”という暗黙のゲームモデル

明確なゲームモデルは存在しないかもしれないが、“日本らしさ”にはこだわりがある 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 イビチャ・オシム監督就任以降、日本人の良さを生かす、日本人の特徴に適したサッカーのスタイルを追求するというのが、今でも続く日本代表の大きな流れである。日本人選手の特徴としてよく挙げられるのは、長所としては「テクニック、敏捷性、勤勉さ、運動量」。短所としては「フィジカルコンタクトの弱さ、身長、直線的なスピード」などであろうか。これらを踏まえて、短所をなるべく表出させず、長所がよく出るようなスタイルとして、大雑把に言えば「ロングパスよりはショートパス」「自陣にバスを止めるよりはプレッシング」「陣形は攻守ともにコンパクトに」「攻撃の選手には自由を与える」といったサッカーを、さまざまな振れ幅はあれど一貫して志向してきた。

 アルベルト・ザッケローニ監督の時代には、ショートパスとプレッシングにより傾倒していたが、やや守備のバランスに針を振った2010年ワールドカップ本大会時の岡田武史監督やヴァイッド・ハリルホジッチ監督の時代ですら、高身長のFWにアバウトなロングボールを放り込み続けるというようなサッカーは志向しなかった。自陣にブロックを敷くとしても、相手にプレッシャーをかけるために全体をコンパクトに保ちながらグループとしてハードワークし、カウンターをする際にも敏捷性とテクニックを生かしたドリブルやコンビネーションによるものがメイン。さらに言えば、それでも日本人のメンタリティーに適合しないと判断すれば、W杯本大会の直前であってもハリルホジッチ監督を解任するなど、「日本のスタイル」に対するこだわりは、国全体を通して存在している空気感のようなもの、と言っていいだろう。

 よって、森保監督の率いる現在の日本代表も、このような大きな流れを引き継ぎながら、ハリルホジッチ監督時代の大きな特徴であり、現代サッカーの潮流にも合致した「縦方向へのスピード」をミックスしたようなスタイルを志向している。すなわち、現在の日本代表を貫く大きなロジックは、「ショートパスを多用し」「積極的にプレッシングを行い」「陣形は攻守ともにコンパクトで」「前線の選手には自由を与え」「可能なら縦方向に速い」サッカーを行うことである。

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