謎に包まれた森保ジャパンを『ゲームモデル』で読み解く

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攻撃:近い距離でのコンビネーション

【画像提供:ソル・メディア】

 それでは、以上の前提を踏まえながら、日本代表のゲームモデルの具体的な分析に入っていこう。まずは攻撃の主原則だが、これは「個人の特徴を生かした近い距離感でのコンビネーション」であろう。

 まず、日本人選手の弱点として認識しているフィジカルコンタクトの機会を多く作らせないためにも、ボールホルダーを長い時間孤立させないことが必要になる。そこで、近い距離感でのサポートが求められ(準原則1)、さらには少ないタッチでボールを動かし続ける必要がある(準原則2)。

 また、前線の選手の特徴をフルに生かすことを目的とするため、ザッケローニ監督の時ほどではないが、前線の選手のポジショニングには一定の自由が与えられ、特に崩しの局面ではハーフスペースや大外、あるいは中央など自由にポジショニングを取りながら近い距離でのコンビネーションで相手の守備組織を攻略しようとする(準原則3)。また、ポジショナルプレー的な「パスでゲームをコントロールする」というような考え方は基本的に用いておらず、前方にスペースや選択肢が存在している場合にはバーティカルに(縦に速く)攻撃するのも特徴である。これによって、相手チームの状態が整う前に脅威を与えられる機会が増えた一方、トランジション(攻守の切り替え)時のミスは以前に比べて増加傾向にあり、ゲームの中盤以降はオープンなゲーム展開になることもしばしばある。

守備:組織的なミドルプレス

【画像提供:ソル・メディア】

 次に、守備時の原則を考えてみる。守備の主原則は、「中央を封鎖してサイドに誘導するミドルゾーンでのプレッシング」というのが近いように思う。日本代表のやり方の中では、最も細かくオーガナイズされているのがこのミドルゾーンでのプレッシングであり、この局面に限って言えば明らかに原則が存在するのが見て取れる。

 まず、基本的には「4−4−2」の陣形で守備を行い、2トップは相手のセントラルMFのコースをカバーシャドーしながらボールを外に誘導するようにプレッシングを行う(準原則1)。また、フィジカルコンタクトや直線的なスプリント、ヘディングといった日本人の弱点が顕在化しないために、ライン間をコンパクトに保ち、スペースを圧縮して守ろうとする意識が見られる(準原則2)。

 このように、基本的にはゾーンディフェンス主体の立ち位置を取るが、2列目からの飛び出しや、列を越えて下がって行く選手などのポジションチェンジに対しては、マンツーマン気味についていくことが多い(準原則3)。これは、ゾーンディフェンスの構造的な課題である、守備組織全体の外のスペースや、ゾーンの隙間で受けようとする選手を曖昧にしないための対応であると考えられるが、このギミックには大きな問題点が存在する(その問題点については後述する)。

トランジション:原則がない未開拓領域

【画像提供:ソル・メディア】

 トランジションについては、明確な原則というものがおそらく存在しておらず、現状再現性のある形を持っているとは言いがたいだろう。

 ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)、特に即時奪回を試みるチームにおいて重要なのは、攻撃時にどのようなポジショニングを取り、準備を進めておくかということである。日本代表は、攻撃時にサイドバック(SB)が幅を取る役割で攻撃に参加し、セントラルMFも1枚は積極的に攻撃に参加することが多いので、最悪の場合センターバック(CB)2枚とセントラルMF1枚の計3枚でカウンターの対応を強いられることになり、逆サイドのSBかセントラルMFの残り1枚が、気を利かせて残った場合には4枚でのカウンター対応となる。

 攻撃的なフィロソフィーを掲げながらも、カウンター対応に5枚をかけるチームがほとんど(マンチェスター・シティやリバプールなど)になった現代サッカーでは、4枚でのカウンター対応というのはややリスキーであると分類されるだろう。また、ポジションチェンジを推奨する攻撃時の原則の影響で、ボールを失った際に全体のポジションバランスが崩れていることが多く、即時奪回が成功しにくい状況がたびたび見られる。

【画像提供:ソル・メディア】

 ポジティブトランジション(守→攻の切り替え)に関しても、ボールの逃しどころやカウンターの形といったものに再現性はなく、ボールを奪った選手のキャラクターによってその後のプレーが決まる印象が強い。特に、前線の選手がボールを奪った際に、直後のプレーで安易な縦パスや突破のドリブルをカットされ、逆カウンターを招く場面が多く見られる。

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