連載:イチロー取材記 駆け抜けた19年

“イチロー語録”から哲学を読み解く 何を語ってきたのか

丹羽政善

連載:第9回

イチローの言葉には人を惹きつける魅力がある。そのひとつひとつに耳を傾けたい 【Getty Images】

 イチローの言葉は生きていた。

 ユーモアあり、感情あり、メッセージあり、時に毒あり。

 たとえその日、一言か二言しか話さなかったとしても、それが見出しになったのは、彼の言葉が持つ力強さゆえ。

 伝説の深夜会見でも、多くがイチローの言葉に魅了されたが、臆することなく考えたこと、思ったことを言葉にできる表現力は、他に類を見ない。そして時に、その言葉のひとつひとつに野球哲学をにじませた。

 イチローは何を語ってきたのか。言葉の数々をたどった。

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プロとして勝つだけが目的ではない

キーワード:矜持

 プロとしてのあり方、プロ意識を語った言葉も少なくなかった。

「一番になりたかったですね。僕は、ナンバ−ワンになりたい人ですから。オンリーワンの方がいいなんて言っている甘いヤツが大嫌い、僕は。この世界に生きているものとしてはね。競争の世界ですから。そういう意味で」

 2008年のシーズン最終戦。ダスティン・ペドロイヤ(レッドソックス)とシーズンの最多安打争いを繰り広げる中、結局、213本でタイトルを分け合った。ハッとさせられるような言葉だった。

 2004年10月1日(現地時間、日本時間2日)――シーズン最多安打記録を更新した夜には、こんな話もしている。
「今シーズンに限って言えば、チームが勝てないという状況が最初から続いて、そこに身を委ねることができなかった。自分の中からモチベーションを作り出していかなければならなかったですし、ただそれっていうのはこれまでも自分でやってきたことなんで、人が心配してくれるほど大きな力にはならなかった。今シーズンを通して思うことは、プロとして勝つだけが目的ではない。これだけ負けたチームにいながら、最終的にこんなにいい環境でプレーさせてもらえて、勝つことだけが目的の選手だったら不可能だと思うんですよね。プロとして何を見せなくてはいけないか、自分自身、何をしたいかということを忘れずにやらなくてはいけないということを、自分自身が自分自身に教えてくれた、そんな気がします」

 2011年9月13日、マリアノ・リベラ(ヤンキース)が通算600セーブを記録。1点を追う9回裏1死、イチローがレフト前ヒットを放って出塁。2死となって二盗を試みたものの、失敗。悔しさがにじんだ。

「あそこで行くことを止めたら僕はね、やっぱり、あそこで次も行けるかどうかだからね、結局、僕の価値っていうのは。行きたいなあ、とは思うけど、なかなかああいう局面でスタートを切ることは勇気のいることなんで、まあ、なかなか、難しいねえ。ただ、あそこでじっとしていることは簡単なことなんで、行きたいとは思うよね。まあ、行けるかどうかは分からない」

 当時、リプレー判定があればどうだったのか、というぐらい際どいタイミングだった。それ以前に、あそこでスタートを切ったイチローにすごみを感じた。なお、カットボールを投げ続けたリベラについてはあの日、こう称えた。

「貫くのはすごいよね。言い方悪いけど、それでしょう、人の価値って。貫くこと、貫けるかどうかでしょう、生き方として。なんか、いいなあと思うよね。まあ、本人がそういう生き方をしているかは分からないけど、投球ではそうであって、貫けることって、やっぱりすごいよね」

キーワード:走塁

 なお、走塁に関しては、こんなこともあった。2010年7月18日、アナハイム。延長10回、1死二塁の場面で打球が三遊間へ。二塁走者のイチローはスタートを切ったが、打球は抜けず、イチローは二、三塁間で挟まれた。裏には難しい判断があった。

「ワンアウトで、抜けて(ホームに)還れない選択肢は、僕には許されないですから。挟まれたらもう、打ったランナーを二塁にやるっていう、これももうプライオリティの問題ですね」

 スピードのある選手だけが求められる宿命。

「走塁は難しい、ということですね。あれはもう、スピードのない選手には絶対に起きないことですから。別にその後、何を言われることもなく、スピードのある選手はあれを考えて、実際、あそこで行く勇気はすごいことだと思うし、でも結果ああなるとつらい立場に急になる――理不尽なとこがありますから、そっちを考えますけどね、僕は」
 
 野球はかくも奥深い。ちなみに盗塁に関してはこんな考えを持っていた。2008年、8年連続30盗塁をマークした日、その一端を口にした。

「盗塁のスタンスは変わらない。抜きながらというのが、僕のスタンス。目いっぱいいってはいけない。そうやって人をだまさなければいけない。本来、その必要はないけども、人の目とは、そういうものだから」

キーワード:考える

 プロとして、「考える」は常にテーマでもあった。2016年8月7日、メジャー通算3000安打を達した日に、こう言っている。

「バットを振ること――それ以外もそうですね。走ること、投げること、すべてがそうですけども、ただそれをして、3000はおそらく無理だと思いますね。瞬間的に成果を出すことはそれでもできる可能性はありますけど、それなりに長い時間数字を残そうと思えば、当然、脳ミソを使わなくてはいけない。使い過ぎて疲れたり、考えてない人にあっさりやられることもたくさんあるんですけど、それなりに自分なりに説明ができるプレーはしたいというのは僕の根底にありますから、それを見ている人に感じていただけるなら幸せですね」

 自分なりに説明ができるプレー――。イチローの行動には必ず理由があった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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