日本の車いすフェンシングを支える剣士たち 2020へ向けた、それぞれの思い

瀬長あすか

至近距離での攻防、決め手は「精神力」

国内ランキング1位の加納(写真左)は、日本のエースとして東京大会出場を目指している 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 五輪のフェンシングと同じ剣や防具を使用する車いすフェンシング。車いすを固定しておもに上半身だけでプレーするため、剣さばきの正確性とスピード、至近距離の攻防を支配するタフな精神力が求められる。

 パラリンピックで行われるのは、胴体を突くと得点になる「フルーレ」、上半身全体を突く「エペ」、上半身の突きに斬る動作が加わった「サーブル」の3つ。それぞれ障がいの程度により「A」「B」2つのカテゴリーに分けて男女別にメダルを争うほか、団体戦(フルーレ、エペ)も行われ、白熱の試合が繰り広げられる。

 そんな車いすフェンシングは国内に個性豊かな選手がいるのも魅力だ。今回は、陸上・十種競技の元日本チャンピオンでタレントの武井壮さんが、車いすフェンシングを体験するというNHKの撮影現場に同行。この種目の国内トップ選手である加納慎太郎(ヤフー)と安直樹(東京メトロ)に、これまで歩んできた道と東京に向ける思いを聞いた。

加納のルーツとなったのは剣道での学び

ひとたび剣を握ればポーカーフェースを崩さない。現在、車いすフェンシング・カテゴリーAで国内ランキング1位の加納は、交通事故で左足を切断する16歳まで、小学生時代から始めた剣道に夢中だった。そして、パラリンピックの東京開催決定のニュースを聞き、2013年に車いすフェンサーとしてのキャリアをスタートさせた。

「剣道で学んだ忍耐強さはフェンシングにも生きています。騎士道も武道と共通している部分があるし、武道を追求するために車いすフェンシングをしていると思うことさえありますね」

 現在、東京パラリンピック出場を決める世界ランキングのポイントを獲得するため、加納はまさにワールドカップ(W杯)を戦っている。ランキングはフルーレ19位(19年2月時点。東京パラ出場権は2種目のコンバインドで上位の選手に与えられる)で本人の言葉を借りれば“ギリギリの位置”だ。ロシアや英国などの選手は1日に7〜8時間、剣を持って練習するといい、時短とはいえヤフー社員として業務をこなしながら競技生活を送る加納は、自身の練習の量と質に危機感を抱いている。

「車いすフェンシングは練習の影響が顕著に出るスポーツ。2月のW杯(UAEで開催)ではいい準備をして臨んだ結果、予選で強豪にも勝つことができて12位でした。これから選考の生き残りをかけてレベルが激化していきます。国内の選手層が厚く、練習量も重ねている海外の強豪選手にどう勝っていくかは大きな課題ですね」

走り込みに取り組んだ理由

練習量への不安を吐露した加納。解決策を模索中だ 【スポーツナビ】

 W杯はヨーロッパ開催が多いため、加納はギリシャのクラブチームで準備をしてから試合に臨む。だが、それだけでは到底、太刀打ちできない。20年まで続く選考を戦い抜くため、加納は新たなトレーニングを取り入れる決意をした。

 それは、走ることだ。ジョギングはスポーツの基本ともいえるが、切断者が当たり前に走ることは難しい。通常の義足と異なり、高価なスポーツ用の義足を用意する必要があるからだ。

「これから何を伸ばしていくかを考えたとき、顕著に現れるのは、走ることで得られる体力かなと思って。周りにサポートしてもらい、費用を抑えて作った板バネがようやく完成したので、うまく使っていきたいと思っています」

 そんな加納は昨年10月に開催されたインドネシア2018アジアパラ競技大会の団体戦でアンカーを務め、2つの銅メダルを手にした。

「同じ日に行われたフルーレ、エペ、サーブルの団体戦すべてに出たので、もう死ぬかと思いましたけど(笑)、絶対にメダルを取ると決めてインドネシアに行ったので、気持ちが折れることはありませんでした。まだまだ世界では届かないメダルですが、少しでも可能性があれば狙いにいき、応援してくれる皆さんにいい報告ができたらと思っています」

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著者プロフィール

1980年生まれ。制作会社で雑誌・広報紙などを手がけた後、フリーランスの編集者兼ライターに。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、04年アテネパラリンピックから本格的に障害者スポーツの取材を開始。10年のウィルチェアーラグビー世界選手権(カナダ)などを取材

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