明かされた本田圭佑監督のフィロソフィー カンボジアの歴史を変え、東京五輪出場へ
チームメートと監督として対戦
本田はカンボジア代表監督として、東京五輪予選も兼ねるAFC U−23選手権予選に臨む 【写真:ロイター/アフロ】
3月22日(現地時間、以下同)からミャンマーで開催されるAFC U−23選手権予選において、本田圭佑監督率いるカンボジアはオーストラリア、韓国、チャイニーズ・タイペイと同じH組になった。
言うまでもなく、本田は選手としてメルボルン・ヴィクトリーでプレーしている。一方、同クラブからはDFのトーマス・デングがオーストラリアU−23代表に選出されている。つまりクラブのチームメートと、監督として対戦する可能性があるということだ。
AFC U−23選手権に出場できるのは各組1位と、各組2位の中の成績上位4チームのみ。オーストラリアや韓国も予選敗退の可能性がある。同大会は東京五輪予選も兼ねているため(日本以外にアジアからは3カ国が出場)、彼らも必死だ。
つまりH組は11組中最も難しい「死の組」なのだが、本田圭佑という視点に立てば、普段所属しているAリーグの選手たちと対戦するという点で、やはり「持っている」。オーストラリアにとっても注目の一戦になるだろう。
「教え過ぎない」本田の指導方針
とはいえ、やはり「代表監督兼選手」という役割は、前代未聞の挑戦だ(指導者ライセンスを持っていないため、本田の公式の肩書きはHead of delegation)。
国際Aマッチデーにしか参加できず、それ以外の期間は遠隔からの指示になる。昨年11月のスズキカップ (東南アジアの王者を決める大会)で現地に来られたのは、4試合中2試合(ミャンマー戦とラオス戦)のみだった。
その2試合の戦績は1勝1敗。ミャンマー戦は本田が試合当日に到着して臨んで1−4で敗れたが、7日間の準備をして迎えたラオス戦は3−1で勝利することができた。当然ながら、準備期間が長い方が本田監督のフィロソフィー(哲学)が浸透しやすい(本田不在時にはマレーシアとベトナムに敗れた)。
自戒の念を込めて書くと、問題はスタッフ陣が本田のサッカーをきちんと理解できていないことにあった。理解できていることが限定的なので、逆に知っていることに縛られてしまっている部分があった。
本田は常々、こう言っている。
「選手に教えすぎてはダメ。1つの戦術をできたと思っても、油断するとすぐに忘れてしまう。1つずつステップを踏みながら、焦らずに指導していくべき」
その方針をもとに、現在カンボジア代表ではGKからのビルドアップの練習に多くの時間を費やしている。2014年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会のときに「自分たちのサッカー」と呼ばれたスタイルと言えば分かりやすいだろうか。
ただし、その全体像を理解しているのは、本田監督のみだ。常に現場にいるヘッドコーチのフェリックス・アウグスティン・ゴンザレス・ダルマス(アルゼンチン出身。かつてJFLの佐川印刷でプレー)も筆者も、部分的にしか理解してない。分かっているつもりだったが、細かい部分に目を向けると分かっていないことが多い。それをスズキカップで痛感した。
本田イズムを言語化する
カンボジアの選手へ伝えている「本田のサッカー理論」を言語化することに試みた 【写真:FFC】
幸いもともとスポーツライターなので、そういう作業は専門とするところだ。ミーティングを申し込むと、本田監督から1つ条件が出された。
「戦術を議論するときは、必ず映像を用意してください。これまで日本代表でも、戦術を話し合ったときにそれぞれがイメージしていることが違うことが何度もあった。僕は今後、映像がなかったら一切話しません」
カンボジア代表やマンチェスター・シティの映像をたっぷりと用意し、本田が住むメルボルンの家を訪れた。リビングで「そんなん聞いても代表でやる時間ないでしょ?」と文句を言われながらも、質問責めにした。
まずテーマになったのは、相手に激しくプレスをかけられたときにどう対応するかだ。