「怖くないサウジ」に最少得点で勝利 アジア王者に返り咲くための布石となるか

宇都宮徹壱

サウジにボールを握られ続けた日本だったが

冨安の代表初ゴールを守り切った日本がベトナムとの準々決勝に進出 【写真:ロイター/アフロ】

 試合が始まると、サウジがボールを保持する時間が予想外に長く続く。15分を過ぎても、日本は相手のボール回しに振り回され続けた。前半20分、ようやく日本にセットプレーのチャンス。左CKからの柴崎の正確なキックに、バックステップを踏みながらジャンプしたのは冨安だった。相手DFのマークをものともせず、見事なヘディングシュートでネットを揺らす。「練習から(柴崎が)いいボールを蹴ってくれていたので、しっかり合わせるだけでした」と語る冨安は、代表6試合目にしてうれしい初ゴール。しかも、アジアカップでの日本代表のゴール最年少記録を塗り替える、おまけまで付いた。

 前半25分を過ぎると、ようやく日本らしい攻撃が見られるようになり、次第に攻撃の形が作れるようになっていく。それでも前半の日本のシュートは、セットプレーから先制した1本を含めた2本のみ(サウジは5本)。ポゼッションではサウジが約70%をキープした。日本がアジアの戦いで、これほど相手にボールを握られたのは、アンジ・ポステコグルー監督時代のオーストラリアと対戦した時以来であろう。前半は日本の1点リードで終了したものの、ベンチに引き上げる選手たちの表情は一様に険しい。なお、前半39分にイエローカードを提示された武藤は、通算2枚目で次戦の出場停止が決まった。

 後半もサウジのペースで試合は進み、日本はたびたびシュートに見舞われるものの、相手のキックの精度の低さに救われた。自陣ゴール前で押し込まれそうになる場面も何度かあったが、そのたびにDF陣の体を張ったブロックとGK権田の好判断で事なきを得る。日本は後半31分、疲労が色濃くなった南野に代えて、伊東純也を投入。右の堂安がトップ下に移動する。堂安を中央に置いたことについて森保監督は、「最後に仕留めるというところまではいかなかった」ものの「カウンターのチャンスができたり、タメができたりという部分で」一定の効果があったとしている。この並びは、今後の試合でも見られるかもしれない。

 日本ベンチが、逃げ切りの意思を明確にしたのは後半43分。堂安がベンチに下がり、ウズベキスタン戦で逆転ゴールを決めた塩谷司がピッチに送り込まれる。塩谷は遠藤とともに中盤の守備を固め、柴崎が1つ前にポジションを移すのは、ウズベキスタン戦の時とまったく同じだ。さらにアディショナルタイムには、足がつった武藤に代わって北川航也を投入。その間、日本はサウジの猛攻を何度もはじき返し、ついに無失点でゲームを終えることに成功。次はベスト4進出を懸けて、中2日でベトナムと対戦することになった。

「臨機応変に対応する」ことでベスト8に進出

日本は相手に圧倒されながらも、ゲームをコントロールして最少得点で勝利した 【写真:ロイター/アフロ】

 果たして今回のサウジは「強いサウジ」だったのか、それとも「弱いサウジ」だったのか。何とも判別がつきにくいところではあるが、同スコアの過去の対戦と比べると「怖くないサウジ」と言えそうだ。ピッツィ監督は「私のアイデアをピッチ上で表現してくれた選手には満足している」としながらも、「チャンスを作ってもフィニッシュの精度を欠いていた」と口惜しそうに語っていた。これが全てだろう。ちなみに今大会を最後に、ピッツィは代表監督を退任するとのこと。サウジが今後もつなぐサッカーを続けていくのかどうかは、現時点では分からない。

 それにしても森保監督は、これほどポゼッションで相手に圧倒されることを、どこまで予想していたのであろうか。会見では「サウジアラビアがボールを保持しながら、危険な攻撃ができることはスカウティングで分かっていました」とした上で「本来であれば、ボールを握って試合を展開したいというのが、両チームの狙いだったと思います。試合の流れに臨機応変に対応するところでは、日本の方ができていたのかなと思います」と勝因を分析している。これに関しては、選手たちのコメントからも裏付けることができる。

「試合前からテクニック的に彼らが優れていることは分かっていましたし、ボールを握られる時間帯が多い展開も予想できたので、(チームとして)意思統一して戦えたかなと思います。彼らには中央突破があるので、僕と(遠藤)航のところがしっかりと締めて、中でプレーさせないように心がけていました」(柴崎)

「とにかく19番(ファハド・アルムワラド)の裏に抜けるスペースに気を付けること。クロスはそんなに怖くなかったので、カウンターのところだけを気を付けていました。あとは、押し込まれた時のワンツーやコンビネーション。真ん中から崩してくることは分かっていたので、そこはうまく対応できたと思います」(吉田)

 もちろん、アジアの戦いにおいて受け身に回ったことについては、選手にも忸怩(じくじ)たる思いはあっただろう。それでも「粘り強く無失点に抑えながら戦ったことについては、1つ試合のオプションができたとポジティブに考えていきたい」という森保監督の発言には、一定以上の説得力が感じられる。ポゼッションではサウジが71%に対して日本29%、シュート数ではサウジ15本に対して日本は5本。相手に圧倒されながらも、ゲームをコントロールして最小得点で勝利した経験は、きっとアジア王者に返り咲くための布石となるはず。頂点まで、あと3勝である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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