1位突破を決めた「総合力と継続性」 メンバー総入れ替えで日本が得た収穫

宇都宮徹壱

1位抜けか、それとも2位抜けか

1位通過と2位通過、日本にとってメリットが大きいのはどちらだろうか 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 アジアカップ13日目。グループステージはこの日が最終日となる。グループFは17時30分同時開催で、オマーン対トルクメニスタン(アブダビ)と日本対ウズベキスタン(アルアイン)。グループEは、サウジアラビア対カタール(アブダビ)とレバノン対北朝鮮(シャルジャ)が、いずれも20時にキックオフを迎える。日本はウズベキスタンに勝利すれば1位通過が決まり、ラウンド16の相手がサウジとカタールのどちらになるのかを見守ることになる。逆に引き分け以下だと2位通過となり、2日前に2位突破を決めたオーストラリアと対戦。果たして、日本にとってメリットがあるのはどちらだろうか。

 仮に1位通過でラウンド16に勝利した場合、準々決勝はヨルダン、準決勝はイランと対戦することになりそうだ。逆に2位通過の場合は、準々決勝は開催国のUAE、準決勝は韓国かイラクと当たるのが濃厚。今大会で「優勝候補筆頭」と目される、イランとの対戦を決勝まで引き延ばしたいのであれば「あえて2位通過」という選択肢もあり得よう。とはいえチームの指揮官たるもの、そのような思惑があったとしても、決して表に出すことはあるまい。事実、日本代表の森保一監督は「1位突破して次のステージに向かう」と明言している。

 対するウズベキスタン代表、エクトル・クーペル監督も同様である。前日会見では「2試合出場している何人かの選手はリカバリーに当てる必要があるし、今後の戦いに向けて累積警告のことも考えなければならない」としながらも、「明日の試合は勝ち点3のことしか考えていない」とも。今大会のウズベキスタンは、オマーンとの初戦に2−1、トルクメニスタンとの第2戦に4−0と完勝。ここまでの戦いぶりは、日本よりも充実している印象だ。当人が語るように「チャンピオンズリーグ(CL)やアフリカ・ネーションズカップなど、私にはビッグトーナメントの経験がある」という自負も当然あるだろう。

 ところでクーペルといえば、バレンシアCFの監督時代に2度(2000年と01年)CLの決勝に進出し、いずれも敗れたものの鮮烈なインパクトを残したことで知られる。昨年はエジプト代表監督としてワールドカップにも出場し、大会後から現職。17年のアフリカ・ネーションズカップ(準優勝)に続いて、今度はアジアカップで頂点を目指している。それにしてもマルチェロ・リッピ(中国)やスベン・ゴラン・エリクソン(フィリピン)、そしてクーペルと、今大会は監督の名前が実に豪華だ。かつての欧州の名将たちが、活躍の場をアジアに求める傾向は、今後もしばらくは続きそうな気がする。

メンバー総入れ替えの意義と懸念

「メンバー総入れ替え」でこの試合に臨んだ日本。森保監督の采配からは代表監督時代のジーコが想起される 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 1位抜けか、それとも2位抜けか──。森保監督の本心はともかく、前日会見に語ったとおりになったのが、ウズベキスタン戦でのスターティングイレブンである。GKシュミット・ダニエル。DFは右から、室屋成、三浦弦太、槙野智章、佐々木翔。中盤は守備的なポジションに青山敏弘と塩谷司、右に伊東純也、中央に北川航也、左に乾貴士。FWは武藤嘉紀のワントップ。そしてキャプテンは青山である。オマーン戦に続いてのスタメンは北川のみだが、大迫勇也の欠場がなければ2戦目はベンチスタートの可能性が高かったわけで、実質的には予告どおりの「メンバー総入れ替え」と言って差し支えないだろう。

 この「メンバー総入れ替え」をどう見るべきか。これまで2試合に出場した選手をいったん休ませ、出番がなかった選手に出場機会を与えることは、確かに理にはかなっている。この試合後、ラウンド16から決勝までは4試合。11人プラス数人だけでは、とうてい乗り切れるものではない。ここまでの2試合で、ピッチに立っているのは15人。森保監督が切った交代カードは2試合で3枚のみであった。そもそもキャップ数1桁の選手が12人もいる、経験値の浅いチームである。その意味でも、アジアカップという真剣勝負の場を経験させることには、それなりの意義はある。

 一方で懸念もある。まず、そっくりメンバーを入れ替えることで、主力とのコンビネーションが実戦で確認できないこと。そして、この試合で結果を出した選手が、再び控えに回った場合の影響。もしそうなれば、チームの中に「スタメン組」と「サブ組」という断絶が生まれかねない。チーム内に健全な競争意識が生まれればいいのだが、どうも日本代表での森保監督の采配を見ていると、メンバー固定か総入れ替えの二択しかないようにも感じられる。

 森保監督の采配から想起されるのが、日本代表監督時代のジーコである。04年に中国で開催されたアジアカップでは、頑なにメンバーを固定。消化試合となったグループステージ第3戦でもメンバーを替えず、決勝では1枚も交代カードを使わなかった。そうかと思えば、翌05年に韓国で行われた東アジア(現EAFF E−1)選手権では、突如としてスタメン11人を一気に入れ替えて周囲を驚かせている。森保監督とジーコ監督。バックグラウンドもキャリアもパーソナリティーも、まったく異なる2人の指揮官が、日本代表での采配に類似性が見られるのは何とも興味深い話だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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