1位突破を決めた「総合力と継続性」 メンバー総入れ替えで日本が得た収穫

宇都宮徹壱

塩谷の逆転ゴールで1位突破を果たした日本

塩谷(写真)の代表初ゴールで逆転勝利を収めた日本。グループ1位通過を決めた 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 この日のウズベキスタンは、2試合フル出場でイエローカードを1枚もらっているDFのアンズル・イスマイロフをはじめ、5人の主力を入れ替えてきた。ただし、GKを含むセンターラインは大きく替えることなく、チームの軸がぶれないための配慮が見て取れる。日本は前半20分に乾が相手のクリアボールから鋭いシュート。35分には、セカンドボールを塩谷が拾い、最後は北川が見事な反転からゴールを狙う。どちらもビッグチャンスであったが、いずれもGKイグナチー・ネステロフのセーブに阻まれて得点には至らなかった。

 そうこうするうちにウズベキスタンが先制。前半40分、ドストンベク・ハムダモフのスルーパスにエルドル・ショムロドフが右サイドを抜け出すと、槙野と三浦の追走をかわして右足で日本のネットを揺さぶった。ショムロドフは、これが今大会4ゴール目。日本にとっては、思わず下を向きたくなるような展開である。しかし、わずか3分後に反撃。右サイドで相手DFとの1対1を制した室屋が、そのまま持ち込んでクロスを供給すると、武藤がフリーの状態からヘディングで反応。代表では、実に3年3カ月ぶりとなる武藤のゴールが決まり、前半は1−1で終了する。

 後半は序盤から日本がペースをつかみ、後半9分は伊東、そして11分には武藤と、立て続けに際どいシュートを放つ。逆転ゴールの期待が高まる中、その瞬間が訪れたのは後半13分。右サイドからの室屋のクロスは、いったんはクリアされたものの、ペナルティーエリア前にこぼれたボールを塩谷が見逃さなかった。左足ダイレクトで放たれたシュートは、そのままゴール右に突き刺さる。「頭が真っ白になりましたね。家族も友人も来てくれていたので、自分にとって忘れられない1日になりました」とは当人の弁。所属するアルアインのホームスタジアムでの代表初ゴールとなれば「頭が真っ白」というのもうなずける。

 その後はスコアが動かない中、注目したのは日本のベンチワークであった。ウズベキスタンのクーペル監督が、後半20分から31分にかけて矢継ぎ早にメンバーを入れ替えるのに対し、森保監督は残り10分になっても動かない。ようやく最初のカードを切ったのは後半36分、疲れの見える乾から原口元気に交代。次に武藤に代えて遠藤航を入れ、青山のポジションをひとつ前に上げた。そしてアディショナルタイムに入ると、北川を下げて守備固めのために冨安健洋をピッチに送り出す。日本はそのまま試合を終わらせることに成功。2−1で逆転勝利を収め、グループFを1位で通過することとなった。

あくまで1位突破を目指していた森保監督

トーナメントを戦う日本が「総合力と継続性」を重視していることは間違いなさそうだ 【写真:松尾/アフロスポーツ】

「まずはチームの目標としていた、グループステージに全勝して1位で決勝トーナメントに行くということ。チームとしての目標に、選手たちが結果を示してくれたと思います。この試合に関しても、チームとしてこの大会に総力戦で戦っていくんだということ。このウズベキスタン戦に総合力を示して勝利しようということ。選手たちは非常に厳しい戦いを制してくれて、決勝トーナメントにつなげることができてよかったと思います」

 試合後の会見での森保監督のコメントである。実のところ指揮官は、あくまで1位でのグループ突破を明確な目標に掲げていたようだ。しかも、グループステージで最も拮抗(きっこう)した戦いが予想されていた相手に、主力を温存したメンバーでこのミッションに挑んだのである。正直なところ私は、1位抜けと2位抜けにあまり意味はない、と試合前は思っていた。また、メンバー総入れ替えで勝てるほどウズベキスタンは甘くない、とも考えていた。にもかかわらず、当初の目標を果たすことができたのは、森保監督が会見で強調した「総合力」の賜物(たまもの)であろう。

 指揮官がもうひとつ強調していたのが「継続性」である。いわく「過去2戦でうまくいかない時間帯でも、継続してやり続けることで結果を得られる」。そのことをチームとして共有したことが「同点に、そして後半の逆転につながった」というのが森保監督の考えである。もっとも、継続性の具体的な内容については、この会見では明らかにされていない。それでも、今後のトーナメントを戦う日本代表が「総合力と継続性」を重視していることは間違いなさそうだ。この2つのキーワードは、今後も取材する上で留意することにしたい。

 かくして、グループステージ1位突破を果たした日本は、1月21日のラウンド16でサウジアラビアと対戦することが決まった。この試合の注目点は、ウズベキスタン戦でアピールした選手たちが、主力組を押しのけてスタメンに抜てきされるかどうかである。第3戦で納得のいくベンチワークを見せた森保監督には、今後の厳しい戦いに向けて、チーム内での競争をより活性化させることを望みたい。ジーコ率いる日本代表はメンバー固定のまま、04年のアジアカップを制した。あれから15年。今大会の日本代表は、真の意味での総力戦でもって、2大会ぶりのアジア制覇を果たしてほしいところだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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