強化途上の前回王者・オーストラリア 日々是亜洲杯2019(1月15日)
アジアカップの連覇が難しくなった理由とは?
試合会場に大挙してやって来たシリアのサポーター。その表情は意外なほど明るく感じられた 【宇都宮徹壱】
思えば大会前は「前回チャンピオンのオーストラリアが有利」と思われていたこのグループ。しかしフタを開けてみると、グループでFIFA(国際サッカー連盟)ランキングが最も下(109位)のヨルダンが、初戦でオーストラリアを1−0で破るアップセットを演じた。第2戦でオーストラリアはパレスチナに3−0で快勝するも、けが人が続出した上にサスペンドもいたため、この試合のベンチ入りはわずか8人であった。現時点では「オーストラリアの連覇は厳しい」という見方が支配的だが、そもそもアジアカップの連覇はそんなに容易なものなのだろうか。試合にフォーカスする前に、まずはその点について考えてみたい。
過去16回行われているアジアカップでは、これまで8カ国が優勝している。このうち連覇の経験があるのは韓国(56年、60年)、イラン(68年、72年、76年)、サウジアラビア(84年、88年)、そして日本(00年、04年)。04年大会を最後に、連覇をしたチームは出てきてない。04年大会優勝の日本は07年大会で4位。07年大会優勝のイラクは11年大会でベスト8。11年大会優勝の日本も15年大会でベスト8。いずれの優勝国も、連覇どころか決勝にもたどり着いていないのである。
なぜ、連覇が難しくなったのか。おそらくは、開催年が「ポストワールドカップ(W杯)イヤーに前倒しになったことと無縁ではないだろう。代表チームは4年周期で新陳代謝していく。オーストラリアもW杯終了後、ティム・ケーヒルと主将のミル・ジェディナクが代表を引退(日本に例えれば、本田圭佑と長谷部誠が代表を去るようなものだ)。監督も代わり、新チームとして強化の途上にあるわけで、ピーク時の強さは望むべくもない(W杯後も強さを維持できている例外は、カルロス・ケイロス体制が8年間続いたイランくらいだろう)。よって目下のオーストラリアの目標は、連覇よりもまずグループの2位突破である。
打ち合いの末に2位突破を決めたオーストラリア
完全アウェー状態のオーストラリアであったが、シリアを突き放してグループを2位で突破 【宇都宮徹壱】
試合は、両者共にチャンスを作りながらも決めきれない、手に汗握る展開が続いた。スコアが動いたのは前半42分、右サイドのクリス・イコノミディスからのパスを受けたアワー・メイビルが、中央に切れ込んで左足で強烈なミドルシュート。弾道はそのままネットを突き刺さり、オーストラリアが先制する。しかしわずか1分後の43分、シリアはムアイアド・アルアジャンの右からのクロスにオマル・ハルビンが頭で反応。いったんはGKマシュー・ライアンにブロックされるも、すぐさまハルビンが右足で押し込み、シリアが同点に追いついた。前半は1−1で終了する。
エンドが替わった後半9分、オーストラリアが追加点。トム・ロギッチのサイドチェンジ気味のパスから、左サイドのイコノミディスが山なりのシュートを決める。一瞬、シリアの選手がかき出したかに見えたが、ボールは明らかにゴールラインを割っていた。シリアも後半36分、オマル・アルスマがPKを決めて再び同点とする。しかし45+2分、ロギッチの豪快なミドルが決勝点となり、オーストラリアが勝ち越しに成功。激しい打ち合いを制して、ようやくラウンド16進出を決めた。シリアも素晴らしい戦いを見せたが、残念ながら勝ち点2での3位抜けは厳しそうだ。
試合後の会見。オーストラリアのグラハム・アーノルド監督は、対戦の可能性がある日本について「トルクメニスタンとタフなゲームをしたのは知っている」と語ったものの、それ以上の言及はなかった。今はまだ、日本のことを考える余裕などない、というのが正直なところだろう。一方、われわれはオーストラリアとシリア、どちらが与しやすいかを考えながら観戦することができた。勝ったのはオーストラリアだが、ホームの雰囲気の中で勢いづくシリアのほうにやりにくさを感じていた。その意味で、グループBの結果は極めて好ましいものと言える。逆に、連覇の可能性が感じられない前回王者に勝てないようでは、日本代表の今後を憂うことになりかねないだろう。
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