開催国のプライドとし烈な2位争い 日々是亜洲杯2019(1月14日)

宇都宮徹壱

1位通過が至上命題の開催国

試合会場のハッザーア・ビン・ザーイド・スタジアム。夜になると外壁が美しく彩られる 【宇都宮徹壱】

 アジアカップ10日目。グループステージもいよいよ3巡目に突入した。この日はアルアインでUAE対タイ、そしてシャルジャでインド対バーレーンが行われる。どちらもキックオフは20時。この2試合をもってグループAの順位は確定する。そしてこの日、私は9日間滞在したアブダビを離れて、バスに3時間近く揺られながらアルアインに向かった。現地では17日、グループステージ第3戦の日本対ウズベキスタンが行われるが、その前に3試合を取材する予定。UAE第2の都市では、果たしてどんなドラマを目撃できるだろうか。

 さてアルアインといえば、思い出されるのがワールドカップ(W杯)ロシア大会のアジア最終予選、アウェーでのUAE戦(2017年3月24日)である。ホームでの初戦に1−2で敗れ、その後も苦しい戦いを強いられていた日本は、久保裕也の代表初ゴールを含む2ゴールで2−0と快勝。厳しい試合が多かったこの予選の中でも、ロシア行きを決めたホームのオーストラリア戦に次ぐ快勝であった。さらに歴史をさかのぼれば、1993年に行われたW杯米国大会アジア1次予選のUAEラウンドに行き着く。UAEとの最終戦に1−1で引き分けた日本が、1位通過で最終予選が行われるドーハへの道を切り開いたのも、ここアルアインであった。

 そんな日本サッカーの歴史に何かと縁のある会場にて、開催国UAEはタイとのグループステージ第3戦に挑む。初戦はバーレーンに1−1、第2戦はインドに2−0。どちらの試合も薄氷を踏むような展開の中、しぶとく戦い抜いて積み重ねた勝ち点4である。とはいえ、2位インド、3位タイとの勝ち点差はわずかに1。この日、両者が勝ち点3を獲得すれば、UAEは一気に3位に転落する。もちろん勝ち点4であれば、十分に3位抜けは可能だろう。それでも国民の期待を考えるなら、ここは是が非でも首位でノックアウトステージに到達したいところ。まさに、開催国のプライドが試される一戦である。

 キックオフ直前、バックスタンドとホーム側のゴール裏に、いくつもの巨大なビッグフラッグが掲出された。UAE国旗、大会マスコットのマンスール&ジャラー、そして「FIGHT FOR GOLD」の横断幕。これまで中東のさまざまなスタジアムで取材を重ねてきたが、これほど明確なメッセージが込められたスタンドを見るのは初めてである。この熱気に背中を押されたUAEは、試合序盤からタイを圧倒した。そして前半7分、イスマイル・アルハンマディが右からの折り返しにループシュートを放つもクロスバー。すぐさまアリ・マブフートがヘディングで押し込み、UAEが待望の先制ゴールを挙げる。

初戦の大敗から2位通過を決めたタイ

試合前、UAEを鼓舞するビッグフラッグが、スタンドを覆い尽くすように掲出された 【宇都宮徹壱】

 前半22分、劣勢に立たされていたタイが反撃を開始する。ティーラシン・デーンダーがインターセプトからドリブルで持ち込み、ラストパスを受けたアディサク・クライソーンがシュート。しかしUAEの守護神、ハリド・エイサの好守に阻まれてしまう。その後も受け身の時間帯が続いたタイであったが、41分にティッチパン・プアンジャンからチャナティップ・ソンクラシン、そしてティラーシンとパスがつながった。そして、ペナルティーエリア内での混戦状態を制したのはティッチパン。ハリド・エイサが守るゴールを気迫で打ち破り、タイが同点に追いついて前半は終了する。

 後半はやや膠着(こうちゃく)した展開が続き、どちらも決め手を欠いたまま時間が過ぎていく。裏のインド対バーレーンは、30分が過ぎても0−0のままスコアは動かず。後半39分、10番を付けたUAEの英雄イスマイル・マタルが登場すると、会場が再び熱を帯びる。とはいえ私は、むしろタイの戦いぶりに胸を熱くした。かつてはメンタルが弱く、典型的な内弁慶だったタイが、完全アウェーの状況で堂々たる戦いぶりを見せていたからだ。結局、1−1のままタイムアップ。終了のホイッスルが鳴り響くと、1位抜けを果たしたUAEの選手たちは次々と倒れ込み、2位での決勝トーナメント進出を果たしたタイの選手たちは喜びを爆発させた。

 試合後の会見。UAEのアルベルト・ザッケローニ監督は「今日は試合の入りが良く、早い時間帯の得点でゲームを支配できた。多くのファンのサポートのおかげだと思う」と満足げに語った。一方、タイ代表のシリサク・ヨディヤタイ監督代行は、何やら夢心地の表情。ラウンド16の相手は中国か韓国となるが、「どちらも偉大なチームだが、高いモチベーションとハードワークで挑みたい」とコメントした。それにしても、初戦の敗戦を受けてセルビア人のミロバン・ライェバッツ監督を解任し、自国のスタッフで立ち直ったタイの状況は、何やら去年のW杯での日本代表と重なって見えてしまう。前任者のことを思うと、少し複雑な気分になった。

 この日の裏の試合では、アディショナルタイムに決勝点を決めたバーレーンがインドに競り勝ち、勝ち点4でタイに並んだ。得失点差は、タイが−2でバーレーンが0。ただし、当該勝ち点が優先されるレギュレーションのため、タイが2位でグループを突破することとなった。バーレーンも3位抜けがほぼ決定。インドは4位で大会を去ることとなった。元日本代表監督が率いるUAE、そしてJリーグにゆかりのある選手がプレーするタイ。両チームのベスト16進出は、もちろん日本の取材者としてうれしいが、旋風を起こしたインドの敗退は少し残念。次回大会では、さらに成長した彼らに再会したいものだ。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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