知られざる富山とバスケの関係 選手編 チャンス生かし、第3の「バスケの街」へ
2年連続でのB1残留劇
チームはまず5月5日・6日の最終週で、滋賀レイクスターズから1勝すれば残留という状況で連敗。残留プレーオフの初戦は島根スサノオマジックを退けたものの、横浜ビー・コルセアーズとの2回戦は「中立地」という名目ながら、開催が完全アウェーの東京・片柳アリーナ。富山は敗れ、横浜アリーナで熊本ヴォルターズと最終決戦に臨むことになった。
熊本は震災復興に向けた象徴となっているクラブで、民放キー局の密着取材を受けるなど注目度も高かった。そうすると相対的に富山はどうしても「悪役ポジション」になる。ブースターにとってクラブのピンチとともに、二重の意味で辛い状況だった。
熊本のパワーフォワード中西良太に圧倒され、富山は第3クォーター(Q)に入ると青木ブレイクと小原翼が立て続けにファウルアウト。さらに第4Q残り2分6秒に上江田勇樹までファウルアウトとなってしまう。流れは完全に熊本で、残り1秒のシュートが入っていれば逆転負けもあり得るという薄氷の展開だった。しかし富山は88−85で勝利し、ともかく残留を勝ち取った。
カメラマンの松村純一も、写真を撮りながら必死だった。
「もう仕事どころじゃない。ブースターさんと一緒で、一つ一つのプレーを盛り上がったり落ちたりを繰り返していました。軽くガッツポーズもしていましたし、撮りながら『リバウンド!』と声に出してしまって『うるさくてすみません』って周りに言っていました(笑)」
ブースターの藤平信之は「とにかく声を出すことしか考えていなかった」と口にする一方で、「(滋賀戦から)1カ月余計にかかったので、仕事も手につかず……。あの1カ月はほとんど記憶にない」と振り返る。
B1は経営が順調でも降格の脅威がある。勝利の女神は、なかなかブースターを安心させてくれない。ただそういう浮き沈みを共にするからこそ生まれる結束もあるだろう。人口約105万人の小県をホームにするクラブながら、県内への浸透度が高い。
オール富山で紡ぐ歴史
対するBブラックは富山市出身の馬場雄大が「最多票」で選出され、元富山の城宝とアイラ・ブラウンが名を連ねている。チームが被らないため、馬場や城宝に投票した富山ブースターもいた。
長くクラブを見ているブースターに思い入れのある選手を尋ねると、水戸の名を挙げる人が多い。33歳、185センチのシューティングガードである彼は南砺市出身のご当地選手で、大学卒業後から富山一筋でプレーしてきた。
bjリーグの2年目以来となるオールスター出場について、水戸は抱負を口にする。
「普通だったら僕は多分選ばれていないので、出ていいのかな? という思いもあるんですけれど……。皆さんの思いで僕を選んで下さったと思うので、それについてはポジティブに考えて、精いっぱい盛り上げたい」
彼がこのクラブと契約したのは08年春。当時からの変化を訪ねると、感慨深そうにこう語り始めた。
「僕が入ったときとは、本当にすべてが違いますね。チームを存続させるために削って削ってという状態だった。環境もそうですし、ブースターさんの数も、メディアの取りあげ方も全く違います」
「バスケの街」となる過程にある富山
水戸選手はブースターに対してこう感謝を口にする。
「Bリーグになって新しいブースターの方、お客さんがどんどん見に来て下さって、グラウジーズの認知度がすごく上がったのは感じます。試合会場の盛りあがり方も、クラブからあおるのでなく、ブースターの人たちが主導になって自分たちでこういうことをしようとやって下さっている。富山の人って普段は静かでおとなしい人が多いんですよ。でも会場に来ると一つになる力がすごい。まとまったら強いというのはあると思います」
ただし、今の富山がクラブとして完成形ということではない。かなり盛り上がってはいるものの、アリーナの規模を考えればもっと観客は入る。18−19シーズンの彼らは中地区の上位を争っているが、ここまでの成長曲線を見れば富山は本当の意味で「バスケの街」となる過程にある。そして今回のオールスターは、クラブと街のバスケ文化を加速させるブーストになるだろう。
今回の取材に登場したボランティア、ブースターの皆さんはバスケ経験者が多い。プレーが好きで、そこから観戦にのめり込んだ世代だ。最近は逆にクラブや選手へのあこがれから、バスケを始めるお子さんが増えているのだという。富山では今そういう「サイクル」が回り始めつつある。
比留木選手はビッグマッチの富山開催について、こんなことを口にしていた。
「バスケ文化があって町全体が盛り上がっている、本当に確立されているフランチャイズって日本だと秋田と沖縄だけだと思うんです。これは富山もそうなれるチャンスなのかなって、そう思うところがあります」