古賀幸一郎が語る“リベロの見方” 「待って取る」ための駆け引きに注目

田中夕子

リベロが仕掛ける「プレッシャーの駆け引き」

レセプションやディグの際に行う相手との駆け引きとは? 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

古賀 以前は自分も取りにいけるだけ取りにいくのがいいリベロだと思っていたんですよ。でも今は違いますね。いかに動かず待って取れるか。でもレセプションでは自分がいる場所で待っているだけだと、ほぼ100%リベロを狙ってサーブを打たれることなんてない。そこは相手との駆け引きです。

 相手が「ここに打ちたい」と思うところと、自分がいるところが合致するのがベスト。サーブを打つ時は「この攻撃を消したい」と考えて打ってくるわけだから、そこに自分が動いてフォローする。1本目を取って、2本目も同じコースに狙われたら1本目以上に準備をしていい状態で取る。そうすればサーブを打つ選手は、「リベロにカバーされないようにもっとこっちに打たなきゃ」と考えて、打つ場所やコースを変えてくるはずです。

 でもそこで、位置をずらしたのにまたリベロに取られたらどう思うか。「次はもっと際どいコースに打たないと、またリベロに拾われる」と考えて、より強く打ったり、より厳しいギリギリのコースを狙おうとするでしょう。

 それを決められればサーブを打った選手がすごかった、ということになりますが、「もっとこうしなきゃいけない」というのは相手にとってリスクでもあり、ミスをする確率も増える。それで結果的にミスを誘うことができれば、リベロとしては大成功ですよね。もっと厳しいコースに打たないといけない、もっと何かしなければいけない、と思わせるのが大事です。自分が最善の策だと思ってやったことをリベロに簡単に返されたら次はもっと考えるし、ミスを恐れて6割や7割の力で打ってくれるならこっちは楽で、それができればリベロの勝ち。将棋やチェスに似た「プレッシャーの駆け引き」かもしれません。

 レセプションだけでなく、相手の攻撃を切り返すためのディグ(スパイクレシーブ)も同じ発想です。相手の強打を正面で拾うのもそうですが、たとえば相手がブロックを避けてフェイントしてきたボールをどう取るか。フライングで取られるか、待ち構えて普通に取られるか。どちらが嫌かといえば後者ですよね。スパイカー心理として、苦しい状況から少しでも打破しようと崩すためにフェイントしたのに簡単に拾われたら、次は同じところにフェイントはしづらい。

 そうすればサーブと同様に、次はもっとこう打たなきゃ、もっとこうしなきゃ、と考えるようになって、ブロックに当てて飛ばしたけれどそれも待ち構えて取られて、無理に抜こうとしたらアウトになる。そうなれば初めてリベロの存在価値、ということにもつながるのではないでしょうか。

リベロのプレーにはいくつもの「なぜ」がある

古賀が自身をいいリベロだと思わないのは「もっとできる」と思うから 【田中夕子】

 いいリベロとはどんなリベロか。持論を展開した後、なぜあれほど周囲からの評価が高いにも関わらず、自身をいいリベロだとは思わないのか。そう投げかけると古賀はこう答えた。

「もっとできる、と思うからじゃないかな。これだけできたということよりも、どれだけできなかったかということの方に目がいくし、実際もうちょっとこれができたな、と毎回思う。たとえば去年のファイナルも、チームとしてはイゴール抜きで準優勝までいったことは評価に値するし、チームとして可能性を示せたし、出し尽くせたと思う。でも自分ができたか、というとそれは思わないんですよ。ファイナルの2戦目だけでも『これはもっとできた、もっと拾えた』と思えるボールが5本ぐらいある。僕がネガティブなのかもしれないですけれど(笑)、ずっとそう思ってきたし、だから『もっとできる』って思うんですよ」

 丸いボールを手のどこに当てればAパスを返せるのか。そこから数センチずれるだけで、ボールを弾くこともある。バレーボールはそれだけ繊細であり、何気なく見える1球1球のサーブやスパイクにも細かな駆け引きがあって、初めてポイントにつながる。

 レセプションで失敗してもスパイクで取り返すことができるポジションと違い、「守備専門」とされるリベロが1本サーブを弾くだけで溜息が起こる。報われにくいポジションで、スパイクやブロックで得点するスパイカー陣や、攻撃を操るセッターと比べれば、リベロは着目されることが少ないポジションではある。

 でも、だからこそ奥深く、面白い。リベロを見るだけでも、なぜそこにいるのか。なぜこのボールが拾えたのか。いくつもの「なぜ」につながり、新しいバレーボールの楽しみ方が見つかるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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