高校野球コーチからドラフト候補へ 流浪の剛腕・安河内駿介の軌跡

高木遊

ここまでの野球人生で挫折を味わいながらも、ドラフト候補まで上り詰めた安河内。人を惹き込む明るい性格は今後の大きな武器となりそうだ 【写真:高木遊】

 2年前まで高校野球のコーチを務めるなど異色の経歴を歩んだ男が、最速151キロのストレートを投げる剛腕セットアッパーとして運命のドラフト会議(10月25日)を待つ。

大学2年春に4勝を記録するも…

 安河内駿介(武蔵ヒートベアーズ)は福岡県の出身。高校は熊本の秀岳館高に野球留学したがエースにはなれず、最後の夏も自身が逆転打を浴びて熊本大会準決勝で敗退となかなか芽は出なかった。

 それでも東京国際大に入学すると、徐々にその能力が開花していく。1年春から東京新大学リーグで登板機会を与えられた。そして2年秋にはリーグ戦で7試合の先発を任され、現在福岡ソフトバンクで活躍する石川柊太(当時、創価大4年)と並ぶリーグ2位の4勝を挙げた。しかし以後はひじと肩を故障し残りの2年間はリーグ戦のマウンドに上がることはなかった。野球は諦めて就職活動をし、地元の大手企業から内定を得ていた。

 そんな時、転機が訪れる。高校時代から診てもらっていた福井県にある山内整骨院で施術を受けると、上がらなかった右肩が上がるようになり、3日後にはネットスローができるまでになった。安河内の心の中に「もしかしたら……」と野球継続への淡い期待が生まれた。とはいえ、どこかのチームのテストを受けるほどの回復までは至っていない。

高校のコーチで取り戻した野球愛

懐かしそうに過去の映像を観る安河内 【写真:高木遊】

 そんな時、手を差し伸べたのが東京国際大で同期のマネージャーだった山崎智生だ。母校の世田谷学園高に相談を持ちかけると、監督がちょうどクラス担任になって練習を見られる時間が以前より少なくなったタイミングでもあり、硬式野球部のコーチ(嘱託職員)として採用され、指導とともに選手たちと同じように練習ができることになった。

 当時の様子を世田谷学園高の成瀬智監督はこう振り返る。

「一緒に練習をしていましたから、選手たちは彼の姿を見ることも、彼から話を聞くこともすごく勉強になりました。選手の方から歩み寄って指導を頼むなど兄貴分として慕われていましたね」

 また安河内も「大学で1度腐ってしまったようなところもあったけど、素直な子たちに軌道修正してもらいました」と、野球への愛情を取り戻すことができた。

 そして何より「野球ができる環境」があったことが大きかった。本格的な投球練習ができるようになり、NPBの入団テストを受けられるまでになった。

 だが、結果は不合格……。

「体も薄いし、テイクバックも後ろに入りすぎ。ストレートと変化球も全然フォームが違いますね」と、当時の映像を懐かしそうに見る安河内は、当時の自分に次々と苦笑いでダメ出しを続けた。まだまだ未完成ではあったが、それでも新設の社会人チームから声が掛かり、退職して新天地に移ることになった。

 最後の練習では選手たちがサプライズでプレゼントを渡し、安河内の目は涙で溢れた。

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著者プロフィール

1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。

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