高校野球コーチからドラフト候補へ 流浪の剛腕・安河内駿介の軌跡

高木遊

元巨人・村田に求めたアドバイス

最速151キロのストレートとスライダー、カーブ、スプリットの変化球を織り交ぜる本格派。今年の武蔵はリリーフエースとして活躍した 【写真:高木遊】

 ところがその社会人チームは当初の説明とは異なり、環境がまったく整っていなかったため退社し、オフには再びNPBの入団テストを受けた。不合格ではあったが、2軍の選手たちを相手に3者凡退に抑え、球速も144キロを計測。大卒3年目となる今年は独立リーグのルートインBCリーグに活動の場を移した。

 公式戦のマウンドは大学2年時以来5年ぶりとなる中で、安河内は鮮烈な活躍を見せる。開幕から好調が続き、ストレートの最速も151キロにまで達し、防御率0点台のリリーフエースとなっていった。また片山博規コーチ(元東北楽天)からの指導もどんどんと吸収していった。

 ストレートは「ベルト付近の球が一番強いんだから、そこに思いきり投げろ」とあえてコースを意識せずに投げ込み、新たに習得したスプリットは「ホームベースに直線的に投げるイメージで」腕を強く振って投げるなど引き出しを増やすことができた。

 加えて、その明るく好奇心旺盛な性格で敵の選手にも自ら意見を聞きにいった。外国人投手にはその独特な変化球を聞き、村田修一(元巨人/栃木ゴールデンブレーブス)には、なぜいとも簡単に自分の球を弾き返したのかを聞いた。

プロの目標は「億を稼ぐ」こと

プロでの目標を「億を稼ぐこと」「希望を与える存在になりたい」と語る安河内。前向きな姿勢と行動でさらなる高みを目指す 【写真:高木遊】

 夏場の暑さ、長距離のバス移動、連投で夏場に調子を落とし「圧倒した成績を残す」目標は達成できず、ドラフトは不安な気持ちで迎えるというが、一方で「僕はまだまだ良くなれると思う。安定して150キロを投げられるようにもなるし、155キロまでは出せると思います」と自信をのぞかせる。

 そしてプロに入ることが目標ではなく、「億を稼ぐ」ことを目標に置き、希望を与える存在になりたいと話す。

「もちろん苦しいことの方が多いですけど“野球ってこんなに楽しいんだよ”というのを伝えたいですし、ファンの酒のつまみになるような選手になりたい。希望を与える側になることを意識して、5億もらってもさらに凄い成績を残すような“コスパの良い選手”になりたいです」

 何度もどん底に落ちかけ、回り道を歩んだかもしれない。それでもその道こそが最善だったとも思わせるような常に前向きな姿勢と行動が、さらなる高みを目指す安河内を支えている。

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著者プロフィール

1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。

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