若い2列目を生かした「絶対的FW」大迫 真の柱になるためにやるべきこととは

元川悦子

“燃え尽き症候群”からの脱却

この日も安定したポストプレーで前線にボールを収め、若い2列目の選手を生かした 【写真:つのだよしお/アフロ】

 目下、最前線要員の中では頭抜けた位置づけの大迫勇也だが、ロシアの後は燃え尽き症候群のような状態に陥ったという。

「僕も新シーズン合流2週間はすごく苦労しました。W杯の後というのは目に見えないものがある。それは(各国代表選手の多い)バイエルン・ミュンヘンを見ればよく分かる」と本人も吐露していたが、実際に日本代表を見ても、試合出場機会を思うように得られない吉田や柴崎、香川真司、けがで出遅れた原口元気、昌子源など主力クラスの多くが苦悩の日々を過ごしている。

 それでも大迫はドイツ3つ目のクラブであるブレーメンで8月25日の今季ドイツ・ブンデスリーガ1部開幕・ハノーファー戦からスタメンの座を勝ち取り、9月1日のフランクフルト戦ではリーグ初得点も挙げている。「僕も合わせようとしているし、みんなもすごく温かく迎え入れてくれた」とフロリアン・コーフェルト監督筆頭に彼が1860ミュンヘンとケルン、そして日本代表で築いてきたキャリアをリスペクトしてくれたことが大きかった様子。チームも7節終了時点で4位と好位置につけている。その前向きな流れを大迫は今回の代表に持ち込んだのだ。

 もう1つ、彼自身の変化が見て取れたのは「自分自身が代表をリードしていくんだ」という強い意志である。ロシア大会を区切りに長谷部誠、本田圭佑、酒井高徳といった面々がチームを離れ、2014年のブラジル大会、18年のロシア大会という2回のW杯を経験した大迫はベテラン勢の仲間入りを果たしたと言っても過言ではない。そういう意識があるせいか、以前は報道陣の前でも短時間でインタビューを切り上げる傾向の強かった彼が責任感を持って言葉を発するようになったのだ。

「ロシアの時から引っ張っている気持ちではずっといたけれど、それは変わらない」と本人は言うが、パナマ戦翌日の焼き肉決起集会を槙野智章とともに「みんなで何かできないか」と考え、号令をかける側に回ったという。そういう役目はこれまで槙野ら30代選手に任せてきた12年ロンドン五輪世代だが、もはや同世代は酒井宏樹と原口くらいしかいない。堂安、冨安健洋のように20年東京五輪世代も加わった森保ジャパンは年代の幅が広い。それだけに各世代の選手がやるべき仕事をこなす必要がある。大迫にも少なからずそういう思いがあるから、行動を起こしたのだ。

 強豪・ウルグアイを22年ぶりに撃破し、大いに盛り上がるチームにくぎを刺すあたりもこうした自覚の表れだろう。

「相手もいいチームだったことは確かですけれど、一喜一憂せずに足元を見て、また取り組んでいくことが今は大事。堂安と中島の両サイドにしても、両サイドバックの長友さんと宏樹がしっかりとバランスを取ってくれるからこそ、前に行けている。本当にしっかり足元を見つめて、次に向けて臨んでいかないと。親善試合1試合なので、浮かれている場合じゃないから」

 あえてこんな発言をするのも、W杯最終予選で紆余曲折を味わい、ロシア本大会で戦い抜く難しさを痛感してきたからだ。ブラジル大会で何もできずに惨敗してからの4年間を振り返っても、大迫は順風満帆な道を歩いてきたわけではなかった。ハリル時代には1年以上も代表から遠ざかり、ドイツではいかに屈強な男たちを相手にボールを収め、ゴールを奪うかを研ぎ澄ませてきた。コロンビア戦で夢だったW杯初得点を奪えたのも、地道な努力の成果に他ならない。それだけの経験をしてきたから、世界で勝つことの厳しさ、8強の壁を超えることの意味を若い世代に伝えたいと考えているはず。その熱い思いがこういう形で口を突いて出たのだろう。

クラブでの結果が代表につながる

ウルグアイ戦後、大迫は「浮かれている場合じゃない」と気を引き締めた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 貪欲に高みを追い求める男がこの先やるべきなのは、ブレーメンに帰ってコンスタントに結果を残すこと。今季まだリーグ1得点というのは本人にとっても満足いく数字ではないだろう。ウルグアイ戦で前述した前半34分の理想的な崩し、あるいは後半24分に酒井宏樹からのマイナスクロスをフリーになりながら決められなかったシーンなど、決めるべきチャンスを決め切れていない場面も目についた。今回の10月2連戦直前にゴールを量産してきた中島、UEFAヨーロッパリーグ・セルティック戦で得点した南野がシュートの鋭さを持ち込んでいるのを見ても、チームでのパフォーマンスが重要なのがよく分かる。

 ここまで国際Aマッチ35試合に出場し、9得点という実績は、今の代表攻撃陣の中ではトップではあるが、「ビッグ3」と言われた本田圭佑、岡崎慎司、香川真司に比べるとまだまだ足りない。そこを脳裏に刻み込んで、大迫には絶対的エース街道を突き進んでほしい。「半端ない点取り屋」が真の大黒柱になってくれれば、若いアタッカー陣も、森保監督も心強いはずだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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