横浜FM超攻撃サッカーの体現者・天野純 左足に強い意志を乗せ、難局に立ち向かう

二宮寿朗

堂々としていた代表デビュー

“超攻撃サッカー”横浜FMの中核を担う天野純。9月には代表デビューを果たし、堂々としたプレーを披露した 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 日本代表を経験して、ひと皮むけたのではない。

 ひと皮むけていたことを、日本代表で確認できた。客観的に己を見つめてきた天野純(横浜F・マリノス)は、そんな感覚を持ったに違いない。

 代表デビュー戦となった9月11日のコスタリカ戦、残り15分のタイミングでピッチに投入された。「(緊張を)隠していました」と言いながらも、堂々としていた。チームの勝利を最優先に置きつつ自分の色を出そうとする。技術と狙いのあるクロス、セットプレーでの正確なキック。そのアイデアとテクニックには、新たなハーモニーを醸し出す雰囲気が漂った。

 試合後の取材エリア。ひとしきり話を聞いた最後に、一番の収穫は何だったのかを尋ねた。彼はすぐさまこう返した。

「(代表に来てみて)今までやっていること、根っこのところを変えなくていいんだと思うことができました。これからもやり続けていけばいい、と」

 きっぱりと、はっきりと。

 天野が代表に追加招集された際、驚きの声はさほど挙がらなかった。

 今季、超攻撃サッカーにモデルチェンジした横浜FMの中核を担ってきた。なかでもクラブの先輩である中村俊輔(現・ジュビロ磐田)を彷彿(ほうふつ)とさせる2発の直接フリーキック(FK)は、強烈なインパクトを残した。代表で堂安律 (フローニンゲン)にFKを譲ったシーンが取り上げられたのも、彼のキックに対する期待の裏返しだと言える。

中村俊輔を彷彿する相手との駆け引き

4月の鹿島戦で完璧なキックでゴールを決めた天野(右)。左足だけでなく、駆け引きも大きな武器だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 その左足、華麗につき。

 4月28日のホーム、鹿島アントラーズ戦、前半21分。右サイドでやや遠めのFKを得ると、天野はゴール右ポストの内側に当てるスピードボールでゴールに放り込んだ。

 そしてもう1つが、5月12日のホーム、ガンバ大阪戦、後半16分。こちらは左サイド、やや近め。インパクト重視の速くて落ちるボールでゴール左上を射抜いた。まるで糸を引くように。

 2本とも完璧なキックである。

 だが「中村俊輔を彷彿とさせる」のはテクニックのみならず。むしろ相手との駆け引きに、2人が重なって見えた。

 まず鹿島戦は、中に合わせようとしている仕草を見せている。中に指示を出し、体は味方のほうに向けている。と思った瞬間、「く」の字にして思い切りニアにボールを蹴り込んだのだ。相手GKの意識をニアに向けさせないようにしていた。

 そしてG大阪戦は、山中亮輔、ウーゴ・ヴィエイラを付近に立たせ、「俺は蹴らないかも」ムードを出す。さらに自分とGKを結ぶライン上に、長身の中澤佑二を立たせた。これは「ボールを隠したい」ためだという。日本代表GK東口順昭からゴールを奪うには、駆け引きも技術もセットで完璧でなければならなかった。

 天野にこのシーンをあらためて振り返ってもらったことがある。

「東口選手は、とにかく反応が早い。カーブをかけてしまうと、間に合ってしまいます。なるべく速いボールを打たないと難しい、とは思いました。普通に打っても、点を取るというのは難しいです。その意味でも駆け引きが大事だなと考えていますね」

 彼はマリノスでプレーしてきた先輩、中村俊輔のセットプレーをずっと目に焼き付けてきた。キックフォーム、足の角度から、GKとの駆け引きや味方の使い方まで。

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著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

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