横浜FM超攻撃サッカーの体現者・天野純 左足に強い意志を乗せ、難局に立ち向かう

二宮寿朗

うまくて闘える選手に 天野純の目指す道

天野(右)のプレーは、横浜FMの先輩・中村俊輔(左)を彷彿とさせるものがある 【写真:アフロスポーツ】

 以前、中村から聞いた“フリーキック論”をふと思い出した。

「自分自身、(FKの成功は)メンタルによるところが大きい。外しても惜しければ、GKや相手ディフェンスにその脅威を与えられる。そうなるとマリノスにセットプレーを与えるだけで『何やってんだ』という声も相手に出てくる。逆にそれでこっちはメンタルで優位に立てる。結局そういうのが大事になってくる」

 天野のFKはまさに、そのメンタル勝負、読み合いで相手を上回ってゴールにたどり着いている。マリノスが武器としてきたセットプレーの脅威と伝統は、天野によって引き継がれた。そのことを天下に知らしめた、2つのゴールであった。

 無論、FKのインパクトだけで代表の座を勝ち取ったわけではない。

 超攻撃サッカーを体現すべく、攻守にわたる働きぶりは頼もしさが伴ってきている。オン・ザ・ボールで技力を魅せ、オフ・ザ・ボールで走力、迫力を見せる。彼はとにかくよく動く。攻から守に切り替わるネガティブトランジション時、相手にまとわりつくしつこさも目立つようになってきた。

 うまくて、闘える選手になる――。それが天野純の目指す道。その理想に迷いなく向かおうとしているのが今だ。代表を経て、それは確信になった。

 しかしチームは残留争いに巻き込まれている。モデルチェンジに踏み切った「改革」の痛みに直面する。毎年、失点数の少ない「堅守」がウリだったが、今季の失点数は上から数えたほうが早くなっている。一方、第28節終了時点で総得点50はリーグトップに立つ。ゴールを挙げても、結果につながらない。もどかしさのなか、なかなか浮上できない時期が続いた。

残留争いを乗り越え一段階上へ

方向性の正しさを証明したいその一念で、天野は戦い続ける 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 だが天野は「チームがやっていることは間違いないこと」と言い切る。そしてこう言葉を続けている。

「面白いサッカーをやっていると思うし、実際、やっていても楽しい。これまでは縦パスをもらっても下げるシーンが少なくなかった。でも(今年は)無理してでも前を向いて、そこからチームの攻撃をスピードアップさせるプレー、前向きなプレーが増えています。『前に、前に』と監督は常に言いますし、(この要求によって)個人的にも成長できていると思う。

 ただ、最初からうまくいかないことも覚悟していたし、苦しい時期を迎えてはいるけれど、チームとともに成長しているとは思います。あとは自分の左足で勝負に導くことができたらいい。そうなればチームは上に行くことができるし、自分ももう1つ上のステージに行けるんじゃないかと思っています。だから自分にフォーカスして、もっともっとやっていかなきゃいけない」

 自分たちを信じ、難局を乗り切って成長につなげたいとする意志。揺らぐどころか、より強固なものになっていた。

 J発足時のオリジナル10で降格経験がないのは鹿島と横浜FMのみ。天野はそのことをプレッシャーとせず、方向性の正しさを証明したいその一念でプレーしている。

 9月16日、ホームでの浦和レッズ戦を1−2で落とし、自動降格圏の17位と勝ち点2差に迫られた。だがここからチームは息を吹き返して2連勝。アウェーの磐田戦(22日)では競り勝ち、ホームのベガルタ仙台戦(29日)は5−2と圧勝した。ウーゴ・ヴィエイラに決定的なパスを送り、山中の先制点をお膳立てするなど天野は「超攻撃」を操っていた。

 苦難を乗り越えた先に、必ず一段階上がったチームと自分が待っているはず。

 迷いはない。天野純は左足に、その強い意志を乗せて――。

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著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

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