田中将大がメジャーで生き残る理由 大型契約を可能にする姿勢と準備

杉浦大介

成功の背景には守備含めた総合力

田中はピッチングだけでなく、フィールディング含めた総合力で高い評価を得ている 【Getty Images】

 ただ投げるだけでなく、守備、けん制のうまさでチームを助ける総合力もアピールしてきた。『YESネットワーク』のコメンテーターを務めるジャック・カリー氏は、「田中はゴールドグラブ賞候補になってしかるべき」と高評価。そして、田中自身も「大事にしている部分」と述べていた守備について尋ねられた時の返答は、メジャーでの成功の理由をわかりやすく示しているようにも思えた。

「一番は意識じゃないですか。ふざけて遊び半分でやっているように見えるかもしれないですけど、僕はキャッチボールの最後にショートスロー、スナップスローの練習とかやっているつもり。日本だと毎日のようにゴロ捕球の練習やノックをやりますけど、こっちだとそういうのもないですからね。当たり前のようにできる人はたくさんいますが、そういう人たちは意識しているからできるんです」

 田中の1球1球にはしっかりとした意味があり、練習時の1つ1つの行動にも根拠がある。試合後にメディアに問われれば、1球の背景を自身の言葉で説明する聡明さを持っている。それほどクレバーなピッチャーだからこそ、メディア、ファンも厄介になりがちなニューヨークで5年間もサバイブしてこれたのだろう。

1つの節目もまだまだ途上

 もちろん5年連続二桁勝利という1つの節目を迎えても、何かが終わったわけではない。田中がニューヨークでのストーリーを完成させるためには、シーズン中に多くの勝ち星を挙げるだけでは物足りない。大事な季節、楽しみな“Tanaka Time”はむしろこれから。3試合で防御率0.90とほぼ完璧だった去年に続き、田中がポストシーズンで再びヤンキースを上位に押し上げることができれば……。

 その時には、過去2年は防御率がやや上がったこと、200イニングの突破経験がないことといったマイナス材料も吹き飛ばせる。09年以来の世界一に大きく貢献すれば、7年契約というヤンキースの大型投資も完全に正当化される。結果として、“日本人メジャーリーガー史上最高の投手”と呼ばれてきた野茂英雄、黒田博樹と同等かそれ以上の評価を田中が受けることになっても不思議はあるまい。

「自分なりに1試合1試合、登板間もそうだし、少しでも向上していけるようにと思ってやっている。その積み重ねで今まで来られている。ここから先、自分が野球をやめるまで、そういう感じでずっとやっていくと思います」

 今秋か、来季以降になるかはわからないが、どんな状況でも向上心を忘れない田中なら、いつかすべてをやり遂げるかもしれない。日本人投手としての到達点の1つであるはずの5年連続二桁勝利も通過点。自身と向き合い続ける背番号19の行く手には、まだまだ長い道のりが広がっているのだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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