高校代表、完敗の中で見えた頼もしさ 目先の結果にとらわれない前向き思考

高木遊
 8月28日、第12回 BFA U-18アジア選手権(9月3〜9日/宮崎)に出場する高校日本代表が大学日本代表と対戦。3対7で敗れたものの、ハーレムベースボールウィークを優勝するなど世界で結果を残した大学代表から大きな収穫を得た。

狙い通りの配球でも被弾

初回に3点を失った市川。狙い通りに投じた外角スライダーを力でスタンドへ運ばれた 【写真は共同】

「今日は今後に生きてくる失敗が多かったです」
 捕手の小泉航平(大阪桐蔭)は3本塁打含む被安打11本という結果にも前向きな言葉を並べた。

 高校代表の先発は永田裕治監督が「どうしても使いたかった投手」と話す大型サイドハンド右腕の市川悠太(明徳義塾)。初回、1死を取った後に四球を出すとドラフト候補の辰己涼介(立命館大)にタイムリーを浴び、同じくドラフト候補の4番・頓宮裕真(亜細亜大)を打席に迎えた。

 1ボール後に内角へシュートを投げ、ファウルで1ストライクを取ったが、続く外角低めのスライダーは、泳がすことに成功しながらもパワーでレフトスタンド前列まで運ばれる3ラン本塁打となった。この場面を小泉は「組み立て通りの配球、狙い通りのコースでした」と振り返り「生半可な球では通用しないと思いました」と、初回から大学代表の力をまじまじと感じさせられた。

打たれても明るい表情のバッテリー

 この後の2回、3回は「特に攻め方を変えてはいませんが、市川がギアを上げてくれました」と無失点で切り抜けた。しかし次はドラフト1位候補にも挙がる190センチ右腕・渡邉勇太朗が大学代表打線に捕まる。4回の先頭・勝俣翔貴(国際武道大)に初球、145キロのストレートを逆方向のレフトスタンドに運ばれると、その後も4安打を浴びて、この回3失点。続く5回に連続四死球を出して降板した。

 それでも渡邉は「ショックはありません。楽しかったです」と、思いのほか清々しい表情だった。ストライクからボールになる球を振ってくれず、ストレートはいとも簡単に弾き返された。4回を終えた後には小泉と「レベルがちげえな」と苦笑いしあったという。

 渡邉、小泉ともに前向きだったのは、自分たちの力を測れたからだと口を揃えた。渡邉は「最初の回は自信のあるストレートがどこまで通用するか試しました。その上で、やっぱりまだまだと気づかせてもらいました」と話し、小泉は「今後に生きてくる失敗」とした根拠を「考えてやった結果ですし、どこまで通用するかを試すことができました」ときっぱり語った。

試合への明確な目的意識

「力を試す場」として臨んだ壮行試合で高校代表が得たものは大きかった 【写真は共同】

 2人の前向きな姿勢に加えて頼もしく感じたのは、この経験を生かす術をすでに2人とも持っていたからだ。アジア選手権で優勝を争うと見られる韓国と台湾は一般的に「ストレートに強い」とされていることに話を振ると、2人とも自らの言葉で淡々と展望を語った。

「小さく動く球を多く使って、ストレートを見せ球にするくらいでもいいと思います」(小泉)
「相手打者の特徴を見て、打者によってはストレートを見せ球にして変化球を決め球にするなど、自分の実力を分かった上で勝つための投球をしていきたいです」(渡邉)

 壮行試合は「力を試す場」、アジア選手権は「勝つために」、一喜一憂せず臨機応変に明確な目的を持てていることは、あらゆることが想定される短期決戦の国際大会でブレない強さの源になってくるだろう。

 永田監督も7回に柿木蓮(大阪桐蔭)が伊藤裕季也(立正大)に浴びた本塁打について「(追い込んだ状況でストレートを打たれ)本来は変化球のところ。そこは話していきたい」と前向きに課題の1つを挙げた。

 もちろん失敗だけでなく、中継ぎ起用を見込んでいる左腕・板川佳矢(横浜)の好救援や、根尾昂(大阪桐蔭)の投打にわたる活躍(1回無安打投球、2安打)、小園海斗(報徳学園)が松本航(日本体育大)の147キロのストレートをライトスタンドに運んだ本塁打など、結果に表れた収穫もあった。

 この1日で得た多くの失敗と成功は、アジアの頂点を目指す高校代表にとって、さらなる大きなエネルギーとなった。
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著者プロフィール

1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。

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