波乱の決勝も…たたえ合った大坂とセリーナ 浅越しのぶの全米オープンテニス解説

構成:スポーツナビ
 テニス四大大会の今季最終戦「全米オープン」第13日は8日(日本時間9日)、ニューヨークのビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンターで行われた。女子シングルス決勝では、大会第20シード、世界ランキング19位の大坂なおみ(日清食品)が、グランドスラム23勝の元世界女王セリーナ・ウィリアムズ(米国)と対戦し、セットカウント2−0(6−2、6−4)のストレートで勝利。グランドスラムのシングルスでは男女を通じて初となる日本人選手優勝の快挙を果たした。

 試合は波乱の展開となった。大坂が第1セットを先取して迎えた第2セット。コーチングの警告を受けたセリーナが審判に猛抗議。さらにラケット破壊で2度目の警告を受けたことで、第6ゲームは大坂に1ポイント与えられた状態でスタートした。第8ゲームに進んでも抗議を続けたセリーナは暴言のペナルティをとられ、今度は大坂に1ゲームが与えられる。会場からブーイングが起こる異様な雰囲気の中で、大坂は第10ゲームをキープし勝利した。

 スポーツナビでは、04年全米オープン女子シングルスでベスト8に進出した、元プロテニスプレーヤーの浅越しのぶさんに試合を解説してもらった。

決勝での大坂とセリーナの狙い

表彰式で、波乱の状況での全米オープン初優勝に涙する大坂なおみ(左)と、声を掛ける女王セリーナ・ウィリアムズ 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 セリーナ選手は最初、大坂さんを左右に動かすようなプレーをしていました。それに対して大坂さんはクロスが主体でした。
 セリーナ選手の考えとしては、大坂さんにしっかりと構えさせないようにする狙いがあって、左右に振って走らせていたのだと思います。大坂さんにしっかりと構えさせると、どちらに打ってくるか読みにくくなります。今回の決勝でもセリーナ選手は一瞬動きを止められて、出だしの一歩に遅れが出ていた気がします。ですからしっかりと構えさせないようにしたくて、左右に振っていました。

 対して大坂さんはクロス主体で展開してあまりいろいろな事をせず、決まった事をやるというプレーでした。すごくシンプルな試合運びになっていたと思います。クロス主体にプレーして、ダウンザラインをふいに打つ。ストロークの安定感も、大坂さんが上でした。

気持ちの波が少なくなった大坂

 相手に走らされた時のフォアハンド、ランニングショットも良かったですね。それが一番上達したのではないかなと思いました。ラケットとボールのバシッと合う感覚、これがもうドンピシャで合っていて、何本も良いショットがありました。
 1番良かったのは、クロスに打ったパッシングショット(ネット近くに出てきた相手の横を打ち抜くショット)でした。ああいった形で打つ時は、フワっと浮いたボールをアングル(角度をつけた位置)に打つ事が多いのですが、大坂さんのショットはボールが浮かない直線的なショートクロスでした。このショットを打たれたら、相手はなかなか取れません。

 以前の大坂さんは、もっとプレーに波がありました。すごくいいショットもあれば、フェンスに届くような位置にボールを打ってしまうような大きなアウトもある。
 でも今はすごくフットワークも良くなっていますし、ラケットにバチっと当たるアジャスト力がある。なおかつ、体もボールを操って打てる位置に入れている。少しスピードを落としてラリー戦にして、チャンスの時にガツンと攻める事もできる。そのメリハリが今回はありました。

「大坂さんは、相手の弱点を突くというより、自分主体のプレーをして試合をつくるタイプ」と浅越さん。決勝では安定感あるクロス主体のプレーを展開した 【Getty Images】

(コーチとの練習の成果?)今のサーシャ・バインコーチは大坂さんに合っているのだと思います。サーシャコーチはメンタルの部分をすごく大事にしているコーチだと思うのです。
 選手はどうしても自分のプレーや状況を客観的に見られなくて、殻にこもって「ああダメだ」となってしまう事があります。そういう時に、「絶対に優勝できるよ」とか、プラスになる事をどんどん言ってもらう事で気持ちが楽になるし、やる気や自信が出てくると思います。
 もちろん安定感を出すためのプレーの練習もしていると思いますが、一番は気持ちの波が少なくなったという事ではないでしょうか。

 あとはサービス力ですね。ファーストサーブ、セカンドサーブともに爆発力がありますし、エースが取れる。サービスゲームのキープ力もある。
 特にブレークポイントを握られた時に、すごくいいサービスを入れられる。ブレークポイントで気持ちを強く持てるというのは、本当にすごくメンタルが充実しているのだと思いました。特にマディソン・キーズ選手(米国)との準決勝では、13本のブレークポイントがあったのに一度も相手にブレークされませんでした。

1/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント