上位選手からの警戒強まる大坂なおみ 壁を崩す鍵は「解決策を見いだす力」
「何をすべきかに集中できなかった」
3回戦で敗退した大坂なおみ。「何をすべきかに集中できなかった」と試合後に振り返った 【写真:ロイター/アフロ】
「今までそんなことはなかったから……なんか年寄りになったみたい」
大坂はそう言い気恥ずかしそうに笑ったが、グランドスラムに次ぐ格付けの大会を既に制している世界18位を、周囲は経験豊富なトップ選手と見なしているのは間違いないだろう。
だからこそ、多くの人たちは見落としていたかもしれない。彼女は、まだまだ若手に属する20歳であることを。そしてウィンブルドンの地を踏むのはわずか2度目で、未体験のことが山ほどあるということを――。
「初めてのウィンブルドンのセンターコートで、舞い上がってしまった」
3回戦でアンゲリク・ケルバー(ドイツ)に敗れた後、大坂は寂しそうに微笑んだ。そこは子供のころから、テレビのモニター越しに幾度も見ていた華やかな地。見慣れた場所ではあったが、実際にコートに立つと、これまで感じたことのない感情が身体を駆けた。
「勝ちたい、良いプレーをしたい」――そんな思いが強くなりすぎ「何をすべきかに集中できなかった」と20歳は打ち明けた。
もうひとつ、センターコートに立つ大坂を戸惑わせたのは、過去の対戦とは異なる相手のプレースタイルだった。一昨年に2度のグランドスラムタイトルと世界1位の栄冠も手にしたケルバーの武器は、いかなる強打をも柔軟な手首を利して打ち返すカウンターにある。だがこの日の彼女は立ち上がりから、「攻撃的に行くこと」を心掛けていた。大坂のボールが少しでも浅くなれば、踏み込み自らポイントを奪いにいく。そのプレーは大坂にしてみれば、想定外のものだった。
「私との試合だからなのか、それとも芝ではいつも彼女はあのような感じなのか、それは分からないけれど……」
驚きのなかで最初のサービスゲームを落とした大坂は、センターコートでの浮遊感のなか、なかなか立て直すことができない。第1セットはチャンスらしいチャンスも訪れぬまま、2−6で失った。
勝者と敗者のコントラスト
勝者と敗者のコントラストが浮き彫りに。「センターコートでの試合を楽しもうと思っていた」ケルバー(右)は隙のないプレーを見せた 【写真:アフロ】
「せっかくのセンターコートが楽しめなかった。それが最大の悔い」
そう言い視線を落とす20歳と、「センターコートでの試合を楽しもうと思っていた」というケルバーの笑顔が、勝者と敗者のコントラストを浮き彫りにした。
この日の対戦相手のケルバーがそうであるように、かつて大坂に苦汁をのまされた上位選手たちも、今や彼女をライバルとして警戒する。一方で大坂には、まだ経験したことのない状況や、直面したことのない戸惑いや窮状が数多(あまた)ある。それらの狭間でグランドスラム2大会連続の3回戦負けを喫した彼女は、「良いプレーができない時でも、解決策を見いだす力」こそが、壁を突き崩す鍵だと言った。
周囲や対戦相手、そして自分自身が思い描く大坂なおみの人物および選手像には、まだ幾分かのズレがある。それら複数の像が統合された時、彼女は次のステージに上がるはずだ。
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