アジア大会での喜びと悔しさを力に変えて 明暗分かれた日本フェンシングが進む未来

田中夕子

躍進見せた日本 男子エペ団体は初の金メダル

アジア大会のフェンシング日本代表は女子フルーレ(写真)や男子エペで団体優勝を果たした一方、男子フルーレは準決勝で敗れるなど、種目で明暗が分かれた 【岡本範和】

 45点先取のフェンシング団体戦で、男子エペ決勝戦の日本対中国は30−22。ロースコアの中で我慢に我慢を重ね、ようやく手にしたアジア大会で初の金メダル。エースの見延和靖(ネクサス)は、喜びをかみしめた。

「リザーブも含めた4人が1つになって、同じ目的に向かって、同じ思いで点数を重ねていく。意味のある勝ち方ができたと思います。誰か1人の力で取ったメダルではなく、チーム全体で取れたメダル。みんなで勝ち取った金メダルだと思っているので、重みが何倍にも感じていますし、東京(五輪)の金(メダル)が、ますますハッキリ見えてきた気がします」

 長年、日本フェンシング界で先頭を走って来たのは男子フルーレだ。現在日本協会会長を務める太田雄貴氏が北京五輪の男子フルーレ個人で悲願の銀メダルを獲得し、ロンドン五輪では団体で銀メダル。最重要強化種目であり、実際に結果を残してきたのも男子フルーレだった。

 必然的に日本で注目されるのは男子フルーレなのだが、世界に目を向ければそうではない。1000を超える世界ランカーの数が物語るように、最も競技人口が多く、人気が高いのはエペ。フルーレとは異なり攻撃権や有効面がなく、体のどこを突いてもポイントになり、同時に突けば両者に得点が入るエペは最も分かりやすい。日本でもフェンシング人気を高め、確立させるために太田が会長就任後、普及や強化において最も力を注いできたのがエペだった。

偶然ではなく必然 確かな成果を示した

見延(写真)の活躍が刺激となり、エペは選手層が厚みを増してきている 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 とはいえ体格差が優位に働くエペで日本人が世界で勝つのは難しい。その常識を打破したのが見延だ。フィジカルトレーニングで体づくりに着手し、不利と思われる状況も長所に変え2015年には日本人のエペ個人として初めてワールドカップで優勝。リオデジャネイロ五輪でも同種目初の6位入賞を果たした。北京五輪で太田がメダルを獲得し「日本人でも勝てる」と1つの指針になり若手選手の意識や技術レベルを向上させたように、見延の活躍が新たな刺激となり、20歳の加納虹輝(早稲田大)も台頭。17年のワールドカップで3位に入り、今季は世界ランキングも五輪出場権獲得圏内の10位に浮上(8月26日現在)、アジア大会の個人戦でも準々決勝で見延との日本人対決を制し、銅メダルを獲得した。

 選手層が厚みを増し、個々が刺激し合い残した結果が自信につながる。そんな充実した「個」の力が結集し、まさに「チーム」として機能したのがアジア大会だ。団体戦の一番手として登場したのは見延で3−3と引き分ける形で加納へつなぐ。続く山田優(自衛隊)が6−8と2点を先行され2巡目へ。そのままの順番であれば見延なのだが、宇山賢(三菱電機)に代わり、加納で逆転、僅差のリードを保った日本が試合を制し、アジアの頂点に立った。
 本当は最後まで自分も出たかった、と苦笑いを浮かべながら、見延は言う。

「試合直前までコーチも作戦は明かさないので誰が出てもいいようにみんなが準備していたし、相性もあります。4人みんなが実力を持っていて、相性でチームを組み変えられる。それがチームの強さなんだと思います」

 偶然ではなく必然。男子エペ団体で獲得したアジア大会初の金メダルは、着実にステップアップを遂げてきたことを証明する、確かな成果だった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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