アジア大会での喜びと悔しさを力に変えて 明暗分かれた日本フェンシングが進む未来

田中夕子

「花形」の男子フルーレは悔しい結果に

悔しい結果となった男子フルーレ。主将の松山(右)は建て直しを誓った 【岡本範和】

 男子エペ団体が金メダルを獲得した翌日には、女子フルーレ団体がアジア大会で初の金メダルを獲得。準決勝で大会5連覇中の世界ランク5位(日本は7位)の韓国を破り、中国との決勝も延長戦の末に35−34。一本勝負を取り切る劇的な結末でアジアの頂点に立った。

 そんな快挙を日本フェンシング界の成果として喜ばしく思う一方で、複雑な思いを抱えていた選手もいる。フェンシング競技の最終日、男子フルーレ団体。準決勝で香港に敗れた後、男子フルーレチームの主将でもある松山恭助(早稲田大)が言った。

「自分は正直、昨日、一昨日の結果は悔しさのほうが大きくて。まだ試合を控えてはいたんですけど、優勝という結果を出してフェンシングが注目されたことはうれしいけれど、男子フルーレではないことがやっぱり悔しかった。僕は男子フルーレという種目が一番の花形であると思っているし、自分たちが一番にいなくちゃいけない、という思いがものすごくあるので、今回こういう結果になって残念ですし、この結果を受け止めてまた1からチームを作っていきたいです」

 松山の言葉が示すように、太田という絶対的な存在が抜けた後も男子フルーレの活躍は目覚ましく、常に日本フェンシング界の先頭を走り続けて来たのは事実だ。昨年の世界選手権個人戦では西藤俊哉が銀、敷根崇裕(ともに法政大)が銅メダルを獲得し世界を驚かせ、世界ランキングでも西藤は10位、敷根は15位まで上りつめた。

 しかしその快挙が、新たな壁をつくる。世界選手権で2人がそろって表彰台に立つまでとは比べられないほど、世界も対策を練り、簡単には勝たせてくれない。西藤、敷根が出場したアジア大会個人でも表彰台には届かず、今季個人ではなかなか結果が出せない分も団体でと意気込み、6月のアジア選手権、7月の世界選手権、そしてアジア大会に臨んだが満足する結果は残せずに終わった。

そびえる壁を乗り越え目指すべき未来へ

現役時代、太田氏(右)とともに男子フルーレをけん引してきた強化本部長の福田氏(左)。東京五輪を見据え、越えるべき課題を掲げた(写真は2010年のもの) 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 個の力、ポテンシャルは申し分ないが、それでもチームとして、組織としてもっとできたことがあったのではないか、と言うのは今年の8月から強化本部長に就任した福田佑輔だ。現役時代は太田と共に男子フルーレをけん引してきたからこその経験を糧に、世界のトップに立つべく、これから越えるべき課題を掲げる。

「以前は太田雄貴の存在が精神的な軸でありポイントゲッターでもあったので、どうやってみんなが我慢して、いい状態で太田に渡すか、チームとして明確なビジョンがあったのでとてもやりやすかったんです。でも今は誰でもポイントが取れる代わりに、誰か1人が思い切りポイントを取ってこられるか、といえば絶対的な存在があるわけでもない。だからこそこのチームがどうやって機能するか。個の能力は高いので、そこをどう使うか。もっともっと突き詰めてやっていかなければいけないし、それができれば東京(五輪)でのメダルが十分狙える状況にあると思っています」

 世界を視野に入れ、世界も日本をライバルとして本気で視野に入れているからこそ越えなければならない壁。それは決してマイナスではなく、来るべき、目指すべき未来に向け、ポジティブな要素であり、世界で戦い、勝つために乗り越えなければならない必要条件でもある。

 無理だと言われても、その都度一歩ずつ、目の前の壁を乗り越えて来たように。快挙も悔しさもさらなる力に変えて、いざ、世界へ――。
 アジア大会で獲得したメダルの数を「躍進」と言うのはまだ早い。そびえる壁を乗り越えて、日本のフェンシングはもっともっと強くなる。証明するのは、これからだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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