100回目の夏を締めくくった大阪桐蔭 「最高で、本物のチーム」が偉業達成

楊順行

100回大会という節目の大会で、史上初となる2度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭 【写真は共同】

「昨年夏、3回戦で負けた翌日から“最高のチームを、本物のチームを、そして最強のチームをつくろう”とスタートして、必ず春夏連覇を達成しようと言い続けてきた。100回大会で、大きな目標にチャレンジできることにワクワクしていましたが、そういう全員の思いが実って、新しい優勝の大旗を一番に手にできました」

 大阪桐蔭・西谷浩一監督は、新調された3代目優勝旗の、いの一番の獲得をそう振り返った。

お互い史上初をかけた決勝戦

 第100回全国高等学校野球選手権大会、決勝。もし金足農(秋田)が勝てば、秋田勢どころか東北初の優勝で、第1回大会で秋田中(現秋田)が準優勝している秋田にとって、100回の記念大会で103年ぶりに頂点に挑戦という歴史の巡り合わせだ。片やセンバツを制覇している大阪桐蔭には、藤浪晋太郎(阪神)らのいた2012年に次ぐ、2度目の春夏連覇というこれも史上初の偉業がかかる。

 試合は序盤から動いた。金足農の先発は、秋田県大会から甲子園の準決勝まで、この夏の10試合を1人で投げ抜いている鉄腕・吉田輝星。「正直、疲れはありました。だけど序盤は、投げていて楽しかった」と、無死一、三塁から中川卓也、藤原恭大を連続三振。ここまでは良かった。だが、さすがに5日間で4試合目の蓄積疲労は隠せない。根尾昂に四球のあと、暴投と石川瑞貴の二塁打で、大阪桐蔭が3点を先制する。4回には、宮崎仁斗に3ランが飛び出して、試合は完全に大阪桐蔭ペースだ。

センターもびっくり?根尾の豪快弾

5回にバックスクリーンへ今大会3本目の本塁打を放った根尾。金足農のセンター・大友も「あんな打球見たことない」と驚きの一発だった 【写真は共同】

 先発は、準決勝から連投の柿木蓮。3回には犠飛で1点を許したものの、テンポよく飛ばした。準決勝まで5試合すべてに登板し、27回で2失点と抜群の安定感を誇る。沖学園(南福岡)との2回戦では、自己最速の151キロをマークし、この日も9回に148キロを計時。

 柿木によると、「力を入れると、かえって腕が振れないんです。なので、リリースまではゼロで、球を離すところで100の力を入れるんです。リリースまで、いかにゼロでいけるかを意識する」ことで、球速も制球も向上したという。結果的にこの日も112球、5安打2失点で優勝投手となった。

 投のヒーローが完投の柿木なら、13得点を奪った打では根尾だ。5回。無死一塁から吉田の3球目を鋭く振り抜くと、打球はバックスクリーンに一直線。金足農のセンター・大友朝陽は一瞬、「センターライナーかな」と一歩前に出た。「それがぐんぐん伸びて、頭の上を越えていった。あんな打球、見たことありません」という一撃は、リードを7点に広げる、自身この大会3本目のアーチだった。

 根尾は言う。

「やはり(吉田は)いい投手で、2打席目までは真っすぐに差し込まれていました。ホームランは、真っすぐかどうかわかりませんが、ちょっと甘いところにきた。チームのためになんとか1本、と思っていただけに、良かったです」

 結局、13対2と圧勝した大阪桐蔭が、2度目の春夏連覇を達成することになる。

連覇の瞬間感極まった中川主将

 それにしても、強い。大阪桐蔭はこれで春夏通じて8回目の優勝で、回数ではPL学園(大阪)を抜いて中京大中京(愛知)の11回に次ぐ2位。夏5回の優勝は歴代3位で、決勝に進めば春夏ともに負けていないのが驚異的だ。また西谷監督にとっても、春夏7回目の優勝となり、これはPL黄金時代の監督・中村順司氏を抜いてトップ。本人は「私個人というより、チームと選手の積み重ねですから」と謙虚だが、55勝(9敗)も歴代3位だし、勝率8割5分9厘もアンタッチャブルといわれてきた中村氏をしのいでいる。

 昨年もセンバツを制覇し、春夏連覇に挑戦した大阪桐蔭。だが、優勝が有望視されながら、仙台育英(宮城)と対した3回戦、ミスからまさかのサヨナラ負けを喫している。当時の主力が多く残る、現チームがスタートしたのはその翌日だ。仙台育英戦で、ゲームセットのはずの内野ゴロで、一塁を踏みそこねてセーフにしてしまったのが、現主将の中川である。

 その中川、「あれ以降の、苦しかった日々を思い出して……」ゲームセットの瞬間、思わず感極まった。根尾が言うには、「中川が、毎日“公式戦負けなしでいこう、日本一になろう、春夏連覇しよう”と厳しく言葉をかけ、意識を高く保ってくれた」からこその、快挙達成だ。豊富なタレントをそろえ、勝って当たり前と見られるプレッシャーにさらされながらの春夏連覇。悔しい敗戦から現チームがスタートした昨年8月20日から、ちょうど1年と1日後のことだった。

 中川が、西谷監督の言葉をなぞるように言う。

「最高で、本物のチームでした」
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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