連載:燕軍戦記2018〜変革〜

新旧ミスタースワローズの共演でCSへ! 山田の打撃を加速させる「青木効果」

菊田康彦

チームに必要なことを言葉で埋める

8月11日の中日戦の8回、山田のタイムリー二塁打で勝ち越しのホームを踏む青木 【写真は共同】

 青木の加入が戦力的に大きなプラスとなっているのは間違いないが、それだけではその価値は測れないと杉村コーチは言う。

「アイツが帰ってきたおかげで、チームがガラッと変わったよね。背中で引っ張っているっていうのか、『オレの背中を見とけ』みたいな雰囲気がありますよ。それにダメな時は悔しがるし、いい時は喜ぶじゃないですか。ああいうのっていいですよね。それと前はなかったんだけど、今はチームを引っ張ろうという姿が見える。ミーティングが終わって『ちょっと一言いいですか?』って大事な話をしたりとか、そういうのは前はなかったです。昨年まではそういう存在も(チームに)いなかったしね。だから、今はある意味『現場監督』かな」

 今シーズンの青木が積極的にリーダーシップを取っているのは、傍目にも伝わってくる。それはメジャーに移籍する前には、あまり感じられなかったものだ。青木本人はどう考えているのか。

「リーダーシップというか、自分の中ではチームのバランスを取ろうとしてるだけなんで。自分しかいないからね、バランスを取れるのが。どうやったら一番チームのためになるのか、そこのバランスを取るっていうことを考えてる。もちろん、引っ張っていくっていうのもあるけど」

 心がけているのは、その時々でチームに必要なピースを、言葉で埋めてあげること。だから、必要なことを適切なタイミングで言おうと心掛けているのだという。それは決して簡単なことではない。

「言葉って入ってくる時があるし、逆に雑音にしか聞こえない時もあるから、やみくもに言っても意味がないと思う。その辺は1人ひとりをちゃんと見ていかないとダメだし、全体を見るのも大事だけど、自分は1人ひとりを見ようとしている。なるべくその選手が何を考えているかっていうのを、自分も考えているんですけどね。もちろん(影響力も)わかっているし、そこに対してはすごい注意を払ってます」

 序盤はチーム全体に向けて発言することも多々あったが、最近では選手個々に声をかけることが多いという。

「チームの今年の方向性というか、色っていうのはなんとなく見えてる気がするから、今は個別に言ってることが多いかな。(シーズン)初めのほうは頻繁にね、負け越したりするとみんな自信を持てなくなったりするから、そういうのが必要だったけど、最近はそれよりも個人的なところをくみ取ってあげるほうが、うまくいくような気がするしね」

CS進出へまずは借金完済

 渡米前は20代だった青木も、今は36歳。チームの野手最年長であり、精神的支柱となっているが、まだまだプレーでもナインを引っ張っていくつもりだ。

「プレーで引っ張るっていうのはもちろん。体力も落ちてないし、まだまだできると思っているから。全然ケガもないしね」

 冒頭で触れた8月11日の中日戦。3度の殊勲打でチームを勝利に導いた3番・山田の前で、2番の青木も3本の二塁打を含む4安打をマーク。山田が放った7回の同点打、そして8回の逆転打は、いずれも青木がお膳立てをしたものだった。ここまで、打率はリーグ8位の3割1分1厘。山田が3割1分8厘だから、2人とも終盤にかけて上げていけば、それこそ「新旧ミスタースワローズ」による首位打者争いへの期待も膨らむが──。

「それはオレらはあんまり思ってないけど(笑)。でも、勝つにはアイツが打ってくれないとね。とにかく(塁に)出さえすればアイツが返してくれるから。あれだけの選手だし、信頼してるからね」

 前半戦終了時点で8つの借金を抱えて最下位に沈んでいたヤクルトも、現在は借金3で3位。首位を独走する広島の背中ははるか彼方だが、このままAクラスをキープすれば優勝した15年以来のCS出場となる。

 もっとも、ある首脳陣は「借金があったら、クライマックスどうこうなんて言ってられない」と話す。堂々とCSに駒を進めるためにも、まずは借金を完済し、6月以降2度にわたって跳ね返されてきた貯金への壁を突破しなければならない。そうすれば、3年ぶりのCS出場も自ずと見えてくるはずだ。
(成績は8月13日時点のもの)

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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