大阪桐蔭・柿木蓮が磨いてきた制球 昨夏の悪夢を振り払った9回の投球
8回まで昨夏と同じ展開に…
大阪桐蔭は柿木の1失点完投で初戦突破。難敵・作新学院を下して、史上初2回目の春夏連覇へ幸先のいいスタートを切った 【写真は共同】
8年連続の出場で、2016年夏には全国制覇している作新学院との対戦。1回戦ではもったいない好カード(春夏連覇経験校の対戦は、100回目の夏の大会史上初めてというプレミアムなおまけつき)は、力のこもった投手戦となった。大阪桐蔭は2回、山田健太の犠飛で先制。だが作新学院は、先発・高山陽成のあとを受けた佐取達也が5回を2安打の力投で、強力打線に追加点を許さない。一方、柿木も、直球を軸にカットボールを有効に使い、作新打線を8回まで3安打無四球8三振と、無得点に抑えていた。
1対0、作新学院の攻撃は、残り1イニング――。
センバツ史上3校目の春連覇を果たし、こんどは史上初の2度目の春夏連覇という大偉業に挑む大阪桐蔭。なにしろこれまで、2度目の春夏連覇への挑戦権を得た――つまり、春夏連覇の達成後、さらにセンバツで優勝してその年の夏にも甲子園に出場した――チームすら、06年の横浜と、昨年の大阪桐蔭しかない。
春夏連覇に挑んだ昨年夏。藤原恭大、根尾昂、山田、中川卓也ら、現在の主力が2年生で数多く出場しており、優勝候補の有力な一角だった。だが、仙台育英との3回戦。1対0で迎えた9回2死一、二塁から、平凡なショートゴロをファーストの中川がベースを踏みそこねて生かし、2死満塁。そこから、西谷浩一監督が「あの悔しさは忘れられないし、選手たちももちろんそうでしょう」という痛恨のサヨナラ負けを喫した。
あとアウト3つで勝利の作新学院戦も、スコアはそのときと同じ1対0。しかも仙台育英戦でサヨナラのマウンドにいたのは、当時2年生だった柿木なのだ。だから、と続ける。
「去年を思い出し、またこういう感じか、と思ってしまったんです」
だが、その裏だ。桐蔭は宮崎仁斗の四球をきっかけに2死二塁とし、藤原の打席で宮崎が単独盗塁を仕掛けたその1球を「いいフォームで打つことだけを考えていた」藤原が強振。これがセカンド右を抜けて宮崎がホームインすると、相手ライトの後逸で藤原までも俊足を飛ばして一挙にホームイン。3対0と突き放した。さすがは「すぐにプロで通用しそうな選手が半分いる」(作新学院・磯一輝捕手)強力打線だ。
成長うかがえた思惑通りの併殺打
「去年は9回に悔しい思いをした。去年と違い、1対0から3対0になったので、変に気負わずにいったつもりですが、いざとなったらやはりちょっと焦りがありました」と、2死三塁から浴びたタイムリーを悔やむが、自賛したのは連打で無死一、二塁となったピンチでの併殺だ。低めに絶妙に制球し、思惑通り内野ゴロを打たせたのは、西谷監督が求めた「打たれ強さ」への解答のひとつとして、日常の練習で「低めのゴロゾーン」(柿木)に投げることを磨いてきたからだ。
柿木は言う。
「軸は真っ直ぐなんですが、やはり変化球が使えると楽になりますね。これが4回目の甲子園で、9回を投げきって勝ったのは初めて。自信になります」
捕手の小泉航平によると、「柿木は真っ直ぐに勢いが増しているし、変化球のキレも良くなりました。なにより、周りを良く見られるようになってきた」。
ムキになって力で抑え込むのではなく、ゴロを打たせてゲッツーを。さらに、1点を失ったあとに初めて死球を与えて2死一、二塁と大詰めで一打同点のピンチを迎えても、最後の打者は冷静に変化球で打ち取った。そのあたりが、柿木の成長なのだ。
試合中から柿木には、「1対0のまま最後まで行くつもりでいてくれ」と声をかけていた西谷監督は言う。
「さすが作新さんは、他チームなら崩れるところも崩れないし、気持ちが強いし、簡単には勝てないチームでした。でも、こういうチームに勝たないと成長はありません。最後まで柿木に託して良かったです。春は優勝を狙うなんておこがましいチームでしたが、100回目の夏に春夏連覇がかかるチャンスにはわくわくしています。注目されるのを力に変えられるようなチームでありたいですね」
西谷監督は、これで甲子園通算50勝。明徳義塾・馬淵史郎監督に並ぶ歴代5位タイで、今日は馬淵さんもお見えですよ――と水を向けられると、「見つからないようにしておきます」と笑いを誘った。
大阪桐蔭、大偉業へまずはひとつの山を越えた。
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