オリヴェイラ色が強い浦和の新スタイル ミシャ時代とは異なる堅守の「3-4-2-1」

島崎英純

オリヴェイラ就任当初は苦戦が続く

オリヴェイラ監督(左)のもと、浦和が調子を上げている 【(C)J.LEAGUE】

 浦和レッズが順位を上げている。リーグ戦では5月5日の第13節・鹿島アントラーズ戦に敗れて以降は3勝4分け。この間の得点は10で失点は3と、数字上も成果を上げている。

 今季の浦和は昨季途中に発足した堀孝史監督体制下で苦しみ、第5節のジュビロ磐田戦で敗戦した翌日に堀監督との契約解除を決断した。その後、新監督を選定する間はユース監督を務めていた大槻毅氏が暫定で指揮を執り、第10節の柏レイソル戦から今季チーム3人目の指揮官となるオズワルド・オリヴェイラ監督が就任したが、当初は勝ち星から遠ざかって苦戦する状況が続いた。

 オリヴェイラ監督はかつて、2007年から11年に鹿島の指揮を執って国内主要タイトル6冠、リーグ3連覇を果たした実績のある指揮官である。当時から堅守を軸にしたチームスタイルの構築が際立っていて、「4−4−2」、もしくは「4−2−3−1」を基盤にしたシステムとともに、オリヴェイラ流のチームカラーは周知の知るところだった。ただ、鹿島の指揮官を退任した後のオリヴェイラ監督は母国のブラジルへ戻って多くの名門クラブの指揮を執ったが安定した成績を残せず、最近は主だったタイトルを獲得していない。そんな中で7年ぶりにJクラブの指揮を執ることになった。浦和の指揮官に就任した当初は、鹿島時代と同様のアプローチでチーム構築を進める所作があった。

4バックを諦め、慣れ親しんだ「3−4−2−1」へ

 オリヴェイラ監督がこだわったのは4バックの導入だった。サイドバック(SB)のオーバーラップを促進してサイドアタックの威力を増し、個人能力の高い2トップ、もしくは1トップにフィニッシュさせる手法は指揮官の中で不変の型としていた節がある。しかし、試合を経てもチーム成績が向上せず、既存選手のパーソナリティーともマッチしないことを悟ると、ワールドカップ・ロシア大会の開催によるリーグ中断期間に実施した静岡県内でのキャンプを経て、システムを「3−4−2−1」に定めた。

「3−4−2−1」は昨季途中まで浦和を率いたミハイロ・ペトロヴィッチ(現・北海道コンサドーレ札幌、愛称はミシャ)監督が用いたシステムだ。3バック、ダブルボランチ、両サイドアタッカー、2シャドー、1トップがその各ユニットで、現在浦和に所属する選手の大半が慣れ親しんでいる形でもある。

 当然、選手はそれぞれのポジション特性や役割を理解していて、アジャストしやすい。つまりオリヴェイラ監督は自らが理想とする戦術に選手を当てはめるのではなく、既存選手の能力を引き出す手法へと切り替えたわけだ。しかし、浦和の伝統的システムとも捉えられる「3−4−2−1」の戦術メカニズムは、かつての指揮官と現指揮官とで大きく方向性が異なっている。

“超攻撃型”だったペトロヴィッチ式との違い

同じ「3−4−2−1」でも守備が売り。現在の浦和は“超攻撃型”だったペトロヴィッチ式とは異なる 【(C)J.LEAGUE】

 ペトロヴィッチ監督のチームスタイルは“超攻撃型”と言えるだろう。自陣最後尾から丁寧にビルドアップし、両サイドアタッカー、2シャドー、1トップの5人が最前線に並ぶ中で、3バックの両ストッパーが積極的に攻撃へ関与してオーバーラップを図る。攻撃には明確なパターンがあり、複数人が連動して発動するコンビネーションプレーは相手守備網を打破するすさまじい威力を有している。あくまでも自らがゲームをコントロールし、長短のパスを織り交ぜ、ワイドな展開も駆使しながら攻撃を浴びせるペトロヴィッチ式のチームスタイルは、かつて率いたサンフレッチェ広島、浦和、そして現在は札幌へと受け継がれてJリーグを席巻している。 

 一方、オリヴェイラ監督が現在用いている「3−4−2−1」は、極力リスクを排除したディフェンシブなスタイルだ。GKの西川周作は直近の味方へショートパスをつながずに、シンプルなフィードキックを多用。3バックは常時最後尾でラインを形成して相手FWの監視を続け、こちらもシンプルな前方フィードで味方FWを敵陣の奥深くへ走らせる。ダブルボランチは自陣バイタルエリアを監視し、サイドアタッカーは両サイドが同時に攻め上がることなく、タイミングを見計らってオーバーラップを図る。そしてシャドーの役割は多岐に渡っていて、当然1トップと近接して攻撃に関与はするものの、守備時には局面のギャップを埋めるために相手SBのマークを受け持つこともある。それは1トップも同様で、守勢に回った際は自陣へ降りてきて守備ブロックの一翼を担う。

 そして、今の浦和は攻撃と守備とでシステムを変化させない。選手たちはできるだけ各受け持ちエリアに定位し、そのシステムを極力崩さずにゲームを進める。その結果、浦和はネガティブトランジション(攻撃から守備への転換)の際にチームバランスを崩さずに相手の勢いを止めることに成功している。オリヴェイラ監督のチームがよる術とするのは「堅守」。そのベースを築き上げた上で得点への道筋を探る。非常に慎重細心なチームなのである。

リーグ中断期間に、あえてフィジカルトレーニング

 堅守を貫くには数々の困難を克服しなければならない。相手の攻撃を浴び続けても動揺せず、虎視眈々(たんたん)と反撃の機会を待つ意思。そして辛抱を重ねながらもスタミナを維持し、千載一遇の好機にフルパワーで能力を発揮できるだけの体力の維持は、今の浦和を支える生命線だ。

 オリヴェイラ監督は、その強固な下地を作り上げるために、リーグ中断期間にあえて負荷の高いフィジカルトレーニングを敢行した。本来はシーズンが開幕する前のキャンプで基礎体力を向上させねばならないところだが、オリヴェイラ監督は就任直後に浦和の選手たちのプレーを見て、フィジカルの改善なくしてシーズンを戦い抜くことはできないと悟ったのだろう。

 シーズン半ばでのフィジカル強化はギャンブル的な要素もあったはずだ。選手のコンディションにはバイオリズムがあり、その波を事前に予測して時期ごとの戦略を定める。トレーニングによって選手の体力が低下すれば成績に響くのは必然で、実際に浦和は強化を図る途上で臨んだルヴァンカップ・プレーオフステージ第1戦でJ2のヴァンフォーレ甲府に完敗し、その結果が響いて同第2戦で勝利したもののアウェーゴール差で敗退している。ルヴァンカップは国内3大タイトルのひとつで、その大会から去るのは承服し難い事態だったが、それでもオリヴェイラ監督はこの時期の体力強化は必須と判断して、トレーニングメニューの負荷を高めた。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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