Jクラブの求人にWantedlyを使ってみた 「IT活用でJクラブは変わる」第2回

えとみほ(江藤美帆)

今回はSNSを活用した求人の話。クラブはブレない「クラブフィロソフィー」を持ち、忠実に守ることが必要です 【(C)J.LEAGUE】

 こんにちは、えとみほです。前回は、サッカークラブにSlackというチャットツールを導入した顛末についてお話しましたが、今回は求人にSNSを活用するという話をしたいと思います。

Jリーグクラブの求人はなぜ見かけない?

 ところで皆さん、これまでJリーグクラブの社員の求人を見たことがありますか? 私は実際に応募をするまで見たことがありませんでした。そんな私が生まれて初めて目にした求人が、元日本代表監督の岡田武史さん率いるFC今治が執行役員を募集しているという「BIZREACH(ビズリーチ)」の広告でした。2017年12月に募集が始まったこの求人は、BIZREACHの広告も兼ねていたので、目にした方も多かったと思います。応募条件のハードルが高かったにもかかわらず、実に1,000名近い方が応募されたそうです。

 しかし、実際にサッカー業界に入ってみると、このような形で大々的に求人媒体を使って「公募」が行われることが稀なケースだということが分かります。サッカークラブのフロントスタッフの大半は、下記のいずれかのルートで入社しているからです。

1.クラブの中の人と知り合いだった。または知人から紹介を受けた
2.公式サイトのお知らせを見て応募した(一般公募)
3.親会社や関連会社、自治体からの出向、転籍

 多い順に、1→2→3になります。いくつかのクラブにヒアリングをしたところ、公募はするけれども、実際には1で決まってしまうというパターンも多くあるようです。クラブによって多少の違いはあるものの、全体的に採用活動にはお金も労力もかけません。そんな面倒なことをしなくても、サッカーにかかわる仕事がしたい人、自分の愛するクラブで働きたい人が山ほどいるからです。

 この「採用」に対するスタンスは、異業種から来た私にはかなり衝撃的でした。というのも、IT業界、特にスタートアップの世界では「採用ですべてが決まる」「社長の仕事の大半は採用」と言われるほど、採用に膨大なエネルギーを割くからです。実際にIT業界では、エンジニアなどは優秀な人を引き当てられるかどうかで生産性が何十倍も違ってきます。だから「どこどこにすごい人がいる」と聞けば、新幹線を使ってでも直接会いに行き、社長自ら口説くこともあります。

 そんな環境に長らくいたので、サッカー業界の採用のカジュアルさには衝撃を受けました。そもそも人事担当がいないのです。そして実は、栃木SCの代表である橋本大輔も私と同じ部分に課題を感じ、まずそこを変えようと費用をかけて「リクナビNEXT」に求人を出したのだという話を聞きました。その結果、私ともう1名の男性(ともに異業種出身)が採用されることになったのです。

 確かに、私も彼もサッカー好きではありましたが、取り立てて栃木SCの熱心なサポーターだったというわけではないので、その求人媒体に広告が出ていなければ応募していなかったと思います。つまり、もしクラブが「いまはうちにいないタイプの人材」や「普段かかわり合いのない異業種のプロフェッショナル人材」を欲しているなら、採用の仕方もそういった人材にリーチする手段をとらなければなりません。

栃木SCの求人を「Wantedly」に出してみる

Wantedlyに掲載した栃木SCの営業職募集 【提供:江藤美帆】

 とはいえ、求人媒体に出稿するにはお金がかかります。実は栃木SCでも6月に営業職の求人を出すことになったのですが、そのための予算を取っていなかったため、今回は公式サイトに掲載するだけにとどめようということになりました。

 そこで私は「Wantedly(ウォンテッドリー)」に会社ページを作ってみることを提案しました。Wantedlyは、日本最大級のソーシャル・リクルーティング・メディアです。通常の求人媒体のような募集も掲載できるのですが、ちょっと変わっているのはそこにSNSのような機能が加わっており、企業ではなく個人も自分のプロフィールを履歴書のような形で掲載することができるという点です。また、募集職種の掲載の仕方についても独特で、給与や待遇よりも「ビジョン」「ミッション」「バリュー」といった価値観のマッチングを重視しています。最初に無料で導入できるということもあり、IT業界のスタートアップ界隈では最も盛んに使われているサービスです。

 そんなサービスを、なぜわれわれのようなサッカークラブが使おうとしたのかというと、栃木SCはJリーグクラブとしては比較的早期にこの「ビジョン」「ミッション」「バリュー」を掲げ、実際に大切にしているクラブだからです。

 私自身、スタートアップ企業を経営していて感じたのは、お金や待遇を重視して入ってきた人よりも、価値観に共感して入ってきてくれた人の方が組織に定着してくれる率が高いということでした。ちなみに私が創業したスナップマートという会社では、現在も私が採用した社員が働いていますが、最初に目指す世界観や働き方に対する価値観が割ときっちり固まっていたため、社長が辞めても以前と変わらず伸び伸びと仕事をしています。組織の世界観、価値観、仕事に対する考え方が固まっていれば、トップの人事に振り回されることなく組織が円滑に回っていくというのを私自身、身をもって体感しました。

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著者プロフィール

Jリーグ・栃木SC、マーケティング戦略部長。外資IT企業、大手ネット系広告代理店勤務などを経て、スマホで写真が売れちゃうアプリ「Snapmart」を開発、ピクスタ100%出資子会社のスナップマート株式会社の代表取締役に就任。2018年3月に代表を退任し、5月より現職

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