Jクラブの求人にWantedlyを使ってみた 「IT活用でJクラブは変わる」第2回

えとみほ(江藤美帆)

必要なのは人事に振り回されない「哲学」

Wantedlyに掲載した栃木SCのクラブフィロソフィー 【提供:江藤美帆】

 私は、これこそがサッカークラブに必要なことではないかと思うのです。というのも、日本に限った話ではないですが、サッカー界では経営陣も監督もそれ以下のメンバーも、短いスパンで頻繁に人が入れ替わります。これはプロフェッショナルの集団である以上、仕方がない面もあるのですが、そのたびに経営方針が変わったり、やりたいサッカーが変わってしまうと、現場が振り回されて疲弊してしまいます。疲弊するだけならいいのですが、それがトップチームの戦績にも影響を及ぼす場合があります。だからこそ、欧州のクラブのように、クラブとしてブレない「クラブフィロソフィー(ビジョン・ミッション・バリュー)」を持ち、それを忠実に守ることが必要ではないかと常々感じていました。

 私が栃木SCに入社した最大の決め手は、代表の橋本もまったく私と同じ考えだったからです。だから、「Wantedlyに募集を出したい」と言ったときも、二つ返事でOKしてくれました(ちなみにクラブのメンバーはWantedlyの存在を誰も知らなかったので、こんなに世界には隔たりがあるのか! とまたしても大きな衝撃を受けました)。

 そんなわけで、会社ページを作って実際に営業の募集をかけてみたところ、あれよあれよという間にPVランキングが上昇し、何と掲載翌日には2万4065社中6位を獲得しました。結果、宇都宮勤務という条件がつくにもかかわらず、若手を中心に多数の方から応募をいただくことができました。

これからは採用とSNSは切っても切れない関係に

「メルカリ」などと並んでランキングは6位まで上昇 【提供:江藤美帆】

 Wantedlyからの応募がたくさんきたのは、SNSでの拡散と無縁ではないと思います。今回、私は社内のメンバーにWantedlyへの登録を促すほか、自分のSNSアカウントのタイムラインでも「応援」を呼び掛けました。Wantedlyでは「応援」と称してSNS拡散をすると、PV数が上昇し、ランキングが上がる仕組みになっています。そしてランキングが上がると露出が増え、さらにPVが増えるのです。

 正直、これは一般企業に比べ、プロスポーツクラブはかなり有利だと思います。というのも、公式アカウントに投稿すればサポーターが「応援」してくれるからです。今回の栃木SCの求人に相当数の応募がきたのも、たくさんのサポーターの応援があったからでした。

 このようなSNSを駆使した採用活動は、今後すべての業界でスタンダードになっていくと思います。というのも、現在10代から20代の若者の中には、すでにテレビを全く見ない、雑誌も新聞も全く読まないという層が増えてきているからです。すでにGoogle検索すらしないという若者もいます。

 また、SNSを駆使した個人の発信も増えており、こちらが「一緒に働いてみたい」と思う人を見つけるのも簡単になりました。まだ数は少ないですが、クラブのフロントスタッフの中にも自分の考えを発信する人が出てきています。私のところにも時々、DMで「えとみほさんと働くにはどうしたら良いでしょうか」というありがたいメッセージが来ます。今後は「この人と働きたい」という、人を軸にした採用・求職スタイルも増えていくのではないかと感じています。

「企業は人なり」と言います。特に、私たちのような責任企業を持たないJリーグクラブは、少数精鋭で運営していることもあり、1人1人の働きが組織運営に大きなインパクトを与えます。これは、IT業界のスタートアップとまったく同じです。

 スタートアップの世界には「最初の10人でその後の運命が決まる」という定説がありますが、サッカークラブも同様だと思います。実際に中で働いてみると、キャラクターの被らない多様な人材を一定数そろえられたところが自律自走で伸びていくように感じます。

 そのためには「人手が足りないから、来た人の中から良さそうな人を採用しよう」という発想ではなく、自分たちのブレない「哲学」を持ち、「良さそうな人だけど何か違う」という人を採用しない、場合によってはこちらから一本釣りで欲しい人材を採りにいく、という気概も必要になってくるのではないかと思います。

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著者プロフィール

Jリーグ・栃木SC、マーケティング戦略部長。外資IT企業、大手ネット系広告代理店勤務などを経て、スマホで写真が売れちゃうアプリ「Snapmart」を開発、ピクスタ100%出資子会社のスナップマート株式会社の代表取締役に就任。2018年3月に代表を退任し、5月より現職

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