サンウルブズを前進させる協調の文化 多国籍軍団が一丸となってシーズン3勝

斉藤健仁

自信を得たニュージーランド遠征

苦しい戦いが続く中で、ジョセフHCを中心に粘り強く前進した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 昨年11月から日本代表で採用した積極的に前に出るディフェンスは1対1のタックル力、左右とのコミュニケーションをしっかり取ることが欠かせない。サンウルブズの選手たちは負けが続く中でも「もっと(基本的な)スキルをやった方がいい」などのミーティングを重ねた。そしてチーム力が上がってきたのが4月、ニュージーランド遠征のころからだった。

 ディフェンスも機能し始めて、ジョセフHCが指導するラインアウトも安定してきたこともあり、昨年の王者クルセイダーズ、一昨年の王者ハリケーンズと後半途中まで良い勝負を演じて、自信を得た2試合となった。「ニュージーランド遠征あたりから、チームがまとまって前に出はじめた」(HO堀江)

 成果が出たのは5月12日、ホームで迎えたレッズ戦(オーストラリア)で63対28で快勝。さらに翌週も香港でストーマーズ(南アフリカ)に、粘り強いディフェンスを見せつつ、SOパーカーの決勝DGで勝利し2連勝を達成した。

 しかし、その後の2試合は、6月のテストマッチに向けて日本代表の主力がチームを離脱した影響もあり2連敗。ベストメンバーで行ければ勝利数を増やすことができたかもしれないが、ジョセフHCも当初からのプランを実行。
 2勝1敗で終えたテストマッチ期間を挟んだ6月30日にはブルズ(南アフリカ)に勝利し、シーズン初の3勝を達成した。

リーチ「失点を抑えればもっと勝てた」

サンウルブズ1年目からチームを支え続けるHO堀江 【写真:アフロ】

 日本代表ではキャプテンを務めるFLリーチも「なぜ勝てるか、なぜ負けるか、サンウルブズで学んだことを代表で生かせた。またラックや接点でもレベルアップできた。カウンターからのアタックやフィジカルで差を感じましたが、失点を抑えればもっと勝てた。サンウルブズは代表強化のアドバンテージになる」と初のサンウルブズの効果を実感していた。

 腰の手術のために、シーズンが終わる前に、一足先にニュージーランドに帰国したジョセフHCは「サンウルブズと日本代表のヘッドコーチを兼任してきましたが、優先すべきはワールドカップ。2チームを見ることによって2つのチームのプランニングやコーディネーションを取ることができて、両チームともにしっかり戦える組織に作り上げたことが兼任した大きな利点だと思っています」と胸を張った。

 ブラウンコーチは「日本人だけでなく外国人選手たちも素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。シーズンが深まるにつれて高いパフォーマンスを発揮できる集団になってきた」と笑みをこぼした。SH流、LO姫野、WTBレメキ、サウマキ、CTBリトルは初のスーパーラグビーながらも高いパフォーマンスを発揮。またキックの成功率が96%だったSOパーカー、唯一の全試合出場となったPRミラーの2人はチームを支え続けた。

「文化は1年目から残っている」

共同主将の一人としてチームをまとめたSH流 【斉藤健仁】

 もちろん、根底にはサンウルブズのチームカルチャーが1年目から続いていることも大きい。堀江が「国籍は違うバラバラのチームだが、お互い協調し合って、尊重し合ってみんなでやる文化は1年目から残っている」と言えば、SOパーカーは「いろいろな背景の選手がいますが、全員が一丸となって楽しみながら過ごせたシーズンだった」と回顧した。

 個人的に高く評価したいのは3勝目のブルズ戦だ。テストマッチ明けで日本代表の主力の多くが休む中、外国人選手たちは6月中旬から合宿を張って準備し、日本代表選手がチームに戻って来る時に、お互いに積極的に声を掛けてコミュニケーションを取っていた姿が印象的だった。相手には南アフリカ代表の主力も多くいる中で、サンウルブズのチーム力を感じた白星だった。

 経験豊富なSH田中は「良い試合をしても、1人が集中力を切らしたり、最後に取られたりする場面が多かった。80分を通しての集中力とコミュニケーションがあれば勝利に近づける」と課題を指摘しつつ、「外国人が多かったが、日本人と外国人もコミュニケーションが取れましたし、流も姫野も松田(力也)も野口(竜司)も積極的にコミュニケーションを取ってくれるし、若手の日本人の成長がチームの成長と言えるくらい。過去3シーズンで一番成長できた。チームとして戦える強さを得られました」と力強く語った。

 サンウルブズ参入初年度にチームを「泥船」と表現したHO堀江も「豪華客船とは言えないですがマグロ漁船くらいになったかな。だいぶ沖に行ける、十分な船に乗っている」と胸を張った。スーパーラグビーという航海に出発して3年目のサンウルブズは、勝ち星こそ少なかったが、チームとしても個人としても世界と戦えるだけの手応えと自信を得たシーズンとなった。

 来年はワールドカップイヤーだけに、今年以上にジョセフHC以下のコーチングスタッフのマネジメント、プランニングといった腕の見せどころとなろう。今年のチーム、選手をベースにさらなる進化を見せて、勝利数を倍以上挙げてプレーオフに進出するくらいの飛躍を遂げて、その勢いをワールドカップにつなげてほしい。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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