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フランスをW杯優勝に2度導いた男
デシャンの「勝運」とリーダーシップ

代わる代わる試合を輝かせた23人の戦士たち

左からグリーズマン、ポグバ、エムバペらを中心に日替わりで主役が誕生
左からグリーズマン、ポグバ、エムバペらを中心に日替わりで主役が誕生【Getty Images】

 しかし、デシャンの最大の功績は、皆で守り、皆で攻め、共に同じ方向に向かってボートをこぎ、「チーム」としてプレーするメンタリティーを築いたことだろう。


 元来、チームプレーの精神を持つ選手を選んでいることもあるが、例えばポール・ポグバなどは、ひとつ間違えばエゴイストになる可能性も持つように見えた選手だった。しかし、デシャン指導下でのポグバは大きく成長し、今大会では、思い切りいくべきときにはそうする良さを残しつつ、不必要に技を披露するような無駄を省き、シンプルかつ効果的にプレーできる選手になっていた。


 実際、このチームではピッチ上の全員が、代わる代わる試合を輝かせた。本調子でなかった序盤にも、決勝でも、見事なまでの確実さでPKを決めたグリーズマン。的確な縦パスで多くの得点機を作り、初戦のオーストラリア戦と決勝で重要なゴールを挙げたポグバ(初戦のゴールは後にオウンゴールに訂正)。苦しい展開の中でも、プレッシャーなどものともせず、伸び伸びと救いのゴールを決めたエムバぺ。FWオリビエ・ジルーは得点こそなかったが、攻守での献身的な働きで地味ながら重要な役割を果たし、MFブレーズ・マテュイディも同様だった。


 そして攻撃陣がなかなか得点できなかった準々決勝のウルグアイ戦ではラファエル・バラン、準決勝ベルギー戦ではサミュエル・ウムティティと、センターバック(CB)たちがセットプレーから貴重な得点をもぎとった。バランは決勝の前半こそ苦労していたものの、それ以外ではほぼ一貫して堂々たる守りを見せた。


 決勝でのみ不調だったものの、守備的MFのカンテは、大会を通して見ればフランスのベストプレーヤーと言っていいほどの働きを見せた。GKウーゴ・ロリスは初戦から数々のスーパーセーブでフランスの勝利を可能にしてきた。そして、ゴールのたびに勇んで祝いにやってくる交代要員もそこにいた。選手たちは、“23人の戦士”という言葉を使う。自分が出られないことに文句を言うような選手は、1人もいなかったのである。

「勝てれば醜くくとも構わない」というメンタリティー

代表選手だった現役時代から「負けるのが大嫌い」だったデシャン監督
代表選手だった現役時代から「負けるのが大嫌い」だったデシャン監督【Getty Images】

「選手のために本当にうれしく思う。今日は素晴らしい試合ができたわけではなかったが、選手たちは、メンタル的な強さを見せた」と試合後、デシャンは言った。絶対にあきらめない精神、これもデシャンが浸透させたこのチームの強みだ。


 実際、クロアチアとの決勝はやや奇妙な試合だった。フランスは、アルゼンチン戦(4−3で勝利)を例外に、決勝までは攻撃よりむしろ、堅固な守備を強みとしてきた。しかしクロアチアが試合の大半で攻勢を保っていた決勝では、毎試合、非常に高いレベルのパフォーマンスを見せていたカンテ、バランの反応が悪く、後半には、そこまで完璧だったロリスがあり得ないミスからクロアチアの2点目を献上。しかし、守備が危険にさらされていたその日、それを埋め合わせるかのように、攻撃陣が並外れた効率の良さを見せたのだ。


 1点目は、グリーズマンのFKが枠内だったとはいえ、公式記録では相手のオウンゴール。2点目は相手の不運なハンドでPKと、終始押し込まれていたにもかかわらず、フランスは前半だけで2−1とリードしていた。


 内容にそぐわないスコアだったが、幸い後半に「本物のゴール」が出た。しかし、それもワンチャンスをつかんでのこと。4−1とリードした時点で、フランスは、枠内へのシュート5本のうち4本を決めるという、非常に高い効率を誇っていた。


「クロアチアは素晴らしい試合をし、ボールを支配していたが、僕らは自分たちの戦略に忠実だった。みんなが僕らのスタイルを好きではないかもしれないが、大事なのは勝つことだ。勝てれば、醜くくとも構わない」と、控えCBながらその経験と気骨でロッカールームを支えた、アディル・ラミは言う。


 そう、デシャンのもうひとつの資質は、この勝利のメンタリティーだ。それを「勝運」と呼ぶ者もいる。彼は選手としてW杯で優勝し、マルセイユとともにチャンピオンズリーグ(CL)優勝を遂げ、監督になるや、無名のモナコを率いてCL決勝に進み、その後、ずっとトップから遠ざかっていたマルセイユを18年ぶりのリーグ優勝に導いた。


 98年W杯優勝時のチームメートだったユーリ・ジョルカエフは、「ディディエは勝利への執着を持っている。彼は負けるのが大嫌いなんだ」と証言する。

「だから(16年の)ユーロ(欧州選手権)決勝で敗れたことは、彼の心に消えない跡を残したに違いない」


 実際、デシャンは優勝決定後、「厳しい時期をくぐり抜け、われわれは遠くから這い上がってきた。ユーロ決勝で負けたことはひどくつらい経験だったが、今日、たぶんそれが役に立った」と言っている。


「あの経験から学んだことが、恐らく、今日の決勝の運命を少し変えた。呪縛は解かれたんだ」

厳しくも温かい、真のリーダー

信頼関係で結ばれた教え子たちが、優勝後に指揮官を胴上げ
信頼関係で結ばれた教え子たちが、優勝後に指揮官を胴上げ【写真:ロイター/アフロ】

 デシャンは、厳しいが、同時に温かさを伝える、選手に近しい監督だと言われる。優勝が決まったあと、選手たちがすぐにデシャンを胴上げしにいったシーンには、多くの事実が凝縮されていた。


 わがままを許さない指揮官であり、仲間であり、導き手であり、時に父のような存在。そして自分の経験を使い、デシャンは選手たちにW杯への道を見せた。決勝後、デシャンは、はしゃぐ選手たちに父親のような一瞥(いちべつ)を投げ、こう言っている。


「彼らはまだ気付いていない。たとえこれからそれぞれ違う道を歩もうと、この23人は、この出来事によって一生結ばれ続けるんだ」

木村かや子

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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