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プロスケーターからフィギュアの継承者へ
町田樹「今回もさようならは言いません」

究極まで質を高めた希有なスケーター

プロスケーター引退を発表した“氷上の哲学者”こと町田樹さん。10月の公演を最後に、研究活動に専念する
プロスケーター引退を発表した“氷上の哲学者”こと町田樹さん。10月の公演を最後に、研究活動に専念する【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 何年前だったか、ジャパンオープンの練習時間に、観客席近くでプロスケーターとして出演する町田樹さん(早稲田大大学院)を見かけた。今思えば、おそらく客席から自らの演技がどう見えるかを把握するため、彼はそこにいたのだろう。フィギュアスケートへの深い思いを、究極まで質を高めた演技で表現する町田さんの姿勢は、2014年に現役を引退しプロスケーターとなっても変わることがなかった。


 現役時代から、町田さんは振り付けに深い意味を持たせることのできる希有(けう)なスケーターだった。特にソチ五輪があった13−14シーズンのショートプログラム『エデンの東』では、哲学すら感じさせる滑りを見せている。そしてプロスケーターとなってからは、自ら振り付けも手がけた。精魂込めて創り上げられた町田さんの一つひとつの作品は、創作過程での熱量は必ず出来栄えに現れると実感させてくれた。

新作『ボレロ』に込めた思い

プリンスアイスワールド東京公演初日に『ボレロ』が披露され、観客は総立ちとなった
プリンスアイスワールド東京公演初日に『ボレロ』が披露され、観客は総立ちとなった【写真:坂本清】

 フィギュアスケートに大きな影響を与えたバレエに最大限の敬意を払って作品を創ってきた町田さんだが、今年の新作『ボレロ』は“滑り”に焦点を置いた振り付けになっている。プリンスアイスワールド東京公演初日(13日)に開かれた記者会見で、町田さんは次のように語った。


「(プロとして活動した)この4年間で確信したことは、フィギュアスケートという表現様式は、舞踊の1ジャンルとして確実に成立しうるということですね。この確信を得たことによって、私は本当にプロスケーターとしても晴れやかに引退することができると思っています。バレエやジャズダンスやヒップホップ、世の中にはさまざまなダンスジャンルがありますが、その中の一つとして確実にフィギュアスケートが入る。なおかつフィギュアスケートでしかできない表現というものがあると思うんです。例えば広大なスケートリンクを高速で、同じポジションで移動するというのは、やっぱりフィギュアスケートでしかできないこと。そういう氷の上でしかできない表現というものを、この『ボレロ』でも突き詰めたつもりです。今までの作品、例えば『ドンキホーテ』『スワンレイク』といった作品では氷上であることを忘れさせるかのような演出に取り組んできたけれども、『ボレロ』では一転して、『ここは氷の上なんだ』ということを見ている人に認識してもらうための演出がたくさん盛り込まれているので、そこに注目していただきたい」


 構想7年、フィギュアスケートの起源であるコンパルソリーフィギュアを取り入れ、スケートに没頭するあまり最後は死に至る男を演じる『ボレロ』。東京公演初日の観客は、8分間の大作が終わると、総立ちになって拍手を送った。

沢田聡子

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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