イタリアの恩師が見た、GK川島のプレー 「チームを救うセーブがいくつもあった」

片野道郎

ロシア大会はGKにスポットライトが当たる大会に

川島の恩師にあたるGKコーチ、フルゴーニに今大会のGKについての印象を聞いた 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 今回のワールドカップ(W杯)ロシア大会は、スーパーセーブから失点につながるミスまで、さまざまな形でゴールキーパーにスポットライトが当たる大会になった。

 ダビド・デ・ヘア(スペイン/マンチェスター・ユナイテッド)、マヌエル・ノイアー(ドイツ/バイエルン・ミュンヘン)という世界でトップ5に入るワールドクラスから、ウィリー・カバジェロ(アルゼンチン/チェルシー)、フェルナンド・ムスレラ(ウルグアイ/ガラタサライ)まで、失点につながるミスを犯してクローズアップされたGKもいれば、ジョーダン・ピックフォード(イングランド/エバートン)、ティボー・クルトワ(ベルギー/チェルシー)、ウーゴ・ロリス(フランス/トッテナム)、イゴール・アキンフェエフ(ロシア/CSKAモスクワ)のように、チームを救うスーパーセーブで脚光を浴びたGKもいる。

 日本代表の川島永嗣(メス)もグループリーグ第2戦のセネガル戦で失点につながるパンチングミスを犯して、国際的な注目と批判の的になった。しかし、続く第3戦のポーランド戦では、日本をグループステージ敗退から救うビッグセーブを連発。ベルギー戦でも同点にされた後、ロメル・ルカクの強烈なヘディングシュートを枠の外に弾き出すなど、決して少なくなかった守備機会の多くで決定的なプレーを見せており、今大会の日本躍進に対する貢献度は決して低いものではなかった。ミスへの過大な言及と比べれば、これらのセーブへの注目度と評価はあまりにも低い。

 その川島にとって恩師にあたるのが、イタリアでパルマ、ベローナ、カリアリなどのGKコーチを歴任し、日本でも2014年にFC東京のGKアドバイザーを務めたエルメス・フルゴーニ。40歳でユベントスを去り、新シーズンはパリ・サンジェルマンで現役続行を決めたサッカー史上有数の名GKジャンルイジ・ブッフォンの育ての親でもあるフルゴーニに、今大会のGKについての印象を聞いた。

代表のゴールを守るのはクラブより難易度が高い

ドイツの守護神・ノイアーはけが明けということもあり、パフォーマンスに精彩を欠いた 【Getty Images】

「W杯は世界トップレベルのGKが一同に会する機会でもあります。その中でも、今回目立ったのはクルトワとロリス、そしてケイロル・ナバス(コスタリカ/レアル・マドリー)でしょうか。一方、ノイアーはパフォーマンスに精彩を欠いていました。左足中足骨の骨折でシーズンの大部分を棒に振り、大会直前に復帰したばかりということもあり、コンディションも試合勘も十分ではなかったのでしょう。

 今名前を挙げた3人に加えて、私がポジティブな印象を受けたのは、ピックフォード、カスパー・シュマイケル(デンマーク/レスター)、ギジェルモ・オチョア(メキシコ/スタンダール・リエージュ)です。

 注意してほしいのは、GKにとって代表チームのゴールを守るのは、クラブチームよりも難易度が高いという点です。毎日一緒にトレーニングしているクラブチームとは異なり、代表は普段とは異なるチーム、異なる戦術のもとでプレーしているプレーヤーの寄せ集めです。ゴールを守る上で基盤となるディフェンダーとの意思疎通や連係、呼吸の合い方も普段の感覚とは違ってくる。

 シュートに対してDFがどのコースを切るか、足を出すのか出さないのかといったディテールのところが少しズレるだけで、GKには迷いが生まれます。その一瞬の迷いが判断を遅らせたり誤らせたりして、ミスが生まれやすくなるという側面があることは無視できません」

 フルゴーニが最初に名前を挙げたクルトワ、ロリス、ナバスはいずれも、プレミアリーグやリーガ・エスパニョーラで優勝を争うメガクラブのゴールを守るワールドクラスだ。彼らと、その域には達していない他のGKとの差はどこにあるのだろうか。

「GKのクオリティーを左右するのは、フィジカル(体格と運動能力)、テクニック(ステップワーク、ダイビング、キャッチング、デフレクティング=手でシュートコースを変える=などGKとしての基本技術)、タクティクス(ポジショニング、読み、状況判断)、そしてメンタル(冷静さ、リバウンドメンタリティなど)という4つの要素です。

 W杯に出場するような国でレギュラーを務めるGKならば、フィジカル、テクニック、メンタルはいずれも水準を大きく上回っているはずです。実際、正面から打たれたシュートのセービングに関してはどのGKも高いレベルにあり、アントワーヌ・グリーズマン(フランス)のブレ球に惑わされたムスレラ、ポルトガル戦で単純なキャッチミスによって後ろにファンブルしたデ・ヘアなどの凡ミスを除くと、止められるシュートはほとんど止めていました。

 そこから先の違いを作り出し、最終的にGKとしてのクオリティーを決定づけるのはタクティクス、すなわち戦術的な能力です。プレーの展開を的確に読み取って細かくポジションを修正し、シュートを打たれた時には常にセーブの可能性が最も高い位置にいる、あるいはクロスやスルーパスに対して先手を打って飛び出し、FWより先にボールに触ってピンチを防ぐ。それがどれだけできているかで、失点を防げるかどうかは大きく変わってきます」

今大会のパフォーマンスはクルトワがナンバー1

フルゴーニは今大会のパフォーマンスはクルトワがナンバー1と断言。その理由は? 【Getty Images】

 フルゴーニは、今大会でのパフォーマンスに関しては、クルトワがここまでナンバー1だと断言する。

「クルトワは2メートル近い身長(199センチ)と長い手足というGKにとって理想的な体格と、それに似合わない瞬発力、敏しょう性を共に備えており、フィジカルという観点から見ても世界トップレベルです。技術的にもステップワーク、腰を低く落とし、両手をやや下げたシュートへの準備姿勢、足元の低くて速いシュートにも最短距離で直線的に反応するダイビング、相手のいない場所に弾くデフレクティングなど、いずれもハイレベル。それに加えて、読みやポジショニングも優れています。シュートに対するセービング能力だけでなく、シュートそのものを未然に防ぐ戦術的な能力も際立っていました。

 例えば相手がサイドの深い位置でボールを持ち、そこから中央に向かってドリブルで仕掛けてきたとき、多くのGKは直接シュートを打たれる場合に備えて、ニアポスト際にポジションを取ります。しかし実際には、角度のないところからニアポスト際にシュートを打つのは難しいので、アタッカーがそれを選択することは少ない。むしろ多いのはエリア中央に詰めているFW、あるいは後方から走り込んでくるMFにマイナスの低いクロスを送るケースです。

 ニアポスト際にポジションを取っていると、こうしたクロスボールに反応できず、結果的にゴールをがら空きにすることになる。しかし、相手がクロスを狙っていることを予測し、それに対応してニアポストから1メートル強ほど離れた位置にポジションを取れば、ポスト際へのシュートに対応できるだけでなく、クロスに飛び込んでそれを止める可能性が高まる。この時のポジショニングは、ゴール前中央がどんな状況かによっても微妙に変わってきます。

 今回のW杯でも、そこまで意識して状況を読み取り、ポジショニングを修正していたGKはほとんどいませんでした。それをやっていた数少ないGKの1人がクルトワです。サイドからの低いマイナスのクロスに反応し、ダイブして止めた場面がありました。トップレベルのフィジカルとテクニックに加えて、戦術的な読みと判断力にも優れているのですから、他のGKとは総合的なレベルがひとつ違います。

 ロリスとナバスは、体格やフィジカル能力という点でクルトワに及びませんが、技術、そして戦術的な読みと判断力が優れており、常に状況を先読みしながらプレーしていました。一方、ピックフォード、シュマイケル、オチョアは、近距離正面からのシュートに対する反応の速さと瞬発力の高さが際立っていました。ナバス、ピックフォード、オチョアは身長が185センチと、体格的には小柄です。最近は190センチに満たないとそれだけでGKとしては二流止まりと考える風潮がありますが、それをカバーする瞬発力と反応性、技術、そして読みと判断力があれば、トップレベルでも十分通用することを彼らは示しています」

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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