イタリアの恩師が見た、GK川島のプレー 「チームを救うセーブがいくつもあった」

片野道郎

川島のプレーは「今回のW杯も全体的にはポジティブだった」

ポーランド戦においては、川島のセーブなしでは敗退の可能性もあったとフルゴーニは話す 【Getty Images】

 フルゴーニの教え子である川島も、身長185センチとGKとしては小柄だ。彼が18歳の時に初めて指導して以来、何度もオフシーズンのトレーニングを手伝い、今でも連絡を取り合っている愛弟子のパフォーマンスは、師の目にはどう映ったのだろうか。

「過去2回と同様、今回のW杯も全体的にはポジティブだったと思います。セネガル戦の1点目、あれは明らかにキャッチするべきボールで、パンチングを選んだこと自体がミスでした。しかしそれを除くと大きなミスはなく、むしろチームを敗北から救う大きなセーブがいくつもありました」

 ミスとして指摘されているコロンビア戦とベルギー戦の失点は、専門家の目にはどう見えているのだろうか。

「コロンビア戦の失点は、壁の下を抜けてきたFKへの反応が遅れていますが、壁に対して飛ばないように指示しており、ファーポスト側に意識を向けていた以上、ミスと呼ぶことはできません。むしろ逆を衝かれたのに反応し、ひとつステップを踏んでボールに手が届いたことを評価すべきです。それが逆にミスと言われる原因になっているのは皮肉な話ですが、GKというのはそういうポジションです。しかし、ミスと言うならば指示に反してジャンプした壁のミスです。

 ベルギー戦の1失点目は、コーナーキックのこぼれ球に対して飛び出したパンチングが遠くまで飛ばなかった、ヤン・フェルトンゲンのヘディングが予想を超えた軌道を描いてファーサイドのクロスバーぎりぎりに落ちてきたという2つの不運が重なったものでした。パンチングに関しては、飛び出すという判断そのものは正しかったのですが、ルカクとのフィジカルコンタクトでパンチングがブレてボールが遠くに飛ばなかった。とはいえ、これはミスとしてあげつらうようなものではありません。

 ただ、フェルトンゲンのヘディングに対しては、ニアポスト際ではなくもう少し中央寄りのポジションを取った方がベターでした。あの位置からニアポスト際に強いヘディングシュートを打つことは不可能ですから、中央に折り返す可能性が高いと考えるべきでした。とはいえ、もしそのポジションを取っていたとしても、クロスバーをかすめて落ちてきたあのボールに触れたかどうかはまた別問題です。あれは、フェルトンゲンも中央に折り返そうとしてヘディングしたのでしょうから、日本にとっては不運だったとしか言いようがない失点です」

「エイジは4度目のW杯を目指してもいい」

ベルギー戦後には「いいW杯だった、胸を張って日本に帰りなさい」と川島にメッセージを送ったという 【Getty Images】

 フルゴーニは、師であるという贔屓(ひいき)目を抜きにしても、川島がW杯ロシア大会で見せたいくつかのセーブは際立って重要なものだったと指摘する。

「特にポーランド戦は、エイジのセーブがなかったら日本は間違いなく敗退していました。前半(32分)にカミル・グロシツキのヘディングシュートを弾き出したセービングは、一歩では届かない距離だったにもかかわらず、細かいステップでファーサイドに移動してダイブしています。あれはこのW杯で私が見たベストセーブの1つです。また、セットプレーから1点奪われた後(後半36分)にも、右からのクロスに槙野が足を出してニアポストの内側に蹴り込んだボールを素早い反応でセーブし、オウンゴールを防ぎました。あれも素晴らしいセーブでした。あれを防いでいなければ、日本はグループステージで敗退していたわけですからね。

 ベルギー戦でも2−2にされた終盤(後半41分)、ナセル・シャドリとルカクのヘディングシュートを続けてセーブする場面がありました。日本の最終ラインはクロスに対してほぼ無防備で、ルカクやマルアヌ・フェライニにほぼフリーな状態でヘディングシュートを打たせていました。そのうち1つでも決まっていれば、アディショナルタイムまで粘ることなく敗れていたでしょう」

 川島とはW杯開幕前に電話で連絡を取って激励したという。

「ベルギーに敗れた後には、『いいW杯だった、胸を張って日本に帰りなさい』というメッセージを送りました。彼が初めてパルマにやって来た時、学習能力の高さと成長の速さを見て、『お前なら近い将来、日本代表としてW杯に出られる』と励ましたのですが、その時には3回も出ることになるとまでは思いませんでした。

 キャリアを通して、たゆまぬ努力を積み重ねてきた結果だと思います。ブッフォンが40歳になっても現役を続けているように、エイジにもまだまだピッチの上で活躍してほしいですね。GKは何歳になっても成長できるポジションです。もう一度、4度目のW杯を目指してもいいんじゃないでしょうか」

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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