過去2回のチャレンジとは違う、W杯16強 勝ち進んだことで日本の課題が明確に

宇都宮徹壱

ベンチワークでベルギーとの戦力差が露呈

後半アディショナルタイムにベルギーに逆転された日本。ベンチワークで戦力差が露呈した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ベルギー相手に2−0。何という理想的なゲーム展開であろうか。とはいえ、残り38分もあれば、相手が3ゴールを挙げるには十分な時間である。ベルギーの反撃は、後半20分のベンチワークから始まった。左ワイドのヤニク・カラスコとFWのメルテンスを下げて、ナセル・シャドリとマルアヌ・フェライニをピッチに送り出す。シャドリは左サイドからの正確なクロスが、そしてフェライニは194センチの長身から繰り出す強烈なヘディングシュートが、それぞれの持ち味。日本が苦手とする、高さで圧倒しようという意図は明白であった。結果としてこの交代は、ベルギーが勝機をつかむ原動力となる。

 後半24分、ベルギーは右CKからチャンスをつかむ。川島がパンチングで対応し、さらに乾がクリアしたところを、左サイドでベルトンゲンがヘディング。シュートの意図はなかったと思われるが、ボールは放物線を描きながらゴール右隅に吸い込まれ、ベルギーは1点差に詰め寄った。さらに29分には、アザールが巧みな切り返しから大迫のマークを振り切り、左サイドからクロスを供給。これに長谷部と吉田との競り合いに競り勝ちったフェライニが、驚異的な打点から同点ゴールを挙げる。この間、わずか5分。ベルギーは試合を降り出しに戻し、心理的にも優位に立つこととなった。

「まさに最後の30分は、本気のベルギーに対抗できなかった」とは、西野監督の偽らざる心境であろう。このころになると日本の選手に、疲労の度合いが色濃く感じられるようになる。しかし残念ながら、この状況を打開するための交代カードを指揮官は持ち得ていなかった。ようやくベンチが動いたのは、後半36分。原口と柴崎に代わって、本田圭佑と山口蛍を投入。原口については、ここまでの運動量を考えれば妥当性が感じられた。しかし柴崎については、(すでにカードを1枚もらっていたとはいえ)いささか不安が残る交代であったと言わざるを得ない。結局のところ、ここにベルギーとの一番の差を痛感した。

 実際、本田と山口の交代は事態の改善にはつながらず、むしろ悪い形でクローズアップされてしまった。アディショナルタイムの45+4分、ベルギーは本田によるCKをクルトワが難なくキャッチ。すぐさまデブライネにつないで、カウンターを開始する。デブライネのドリブルに、山口はプレスにもいけず、さりとてコースを切ることもできず、半ば棒立ちのようになってしまった。するとボールは右サイドを走るトーマス・ムニエに流れ、折り返したボールをルカクがスルー、最後はシャドリがフリーの状態から押し込んだ。ベルギー、劇的な逆転劇。この直後、タイムアップのホイッスルが鳴り響いた。

ベスト16進出も「力が足りない」

勝ち切るには「力が足りない」。しかし、過去2回のチャレンジと比べて、前進した部分もあった 【写真:ロイター/アフロ】

 試合後の会見で西野監督は「過去2回のラウンド16とは違う感覚で、選手には臨ませたかった。そういうチームの大会に対するプランというのは、しっかりとできた中で戦えたというのはあります。やはりまだ力が足りない、ということを見せつけられました」と総括した。その上で、今大会で浮き彫りになった課題を「また4年後、今日をもってまた(次の体制に)託したいなと思います」と締めくくっている。西野監督については、日本代表の契約更新の可能性が報じられていたが、この発言を聞いて「多分ないだろうな」と確信した。いずれにせよ、ここまでチームを導いてくれた指揮官には、心から「お疲れ様でした」と申し上げたい。

 かくして、ここロストフ・ナ・ドヌにおいて、日本代表の戦いが終わった。もちろん悔しいし、もっとできたのではないかという思いもあるが、これが現状での限界だったようにも感じる。グループステージ、そしてラウンド16の合計4試合を戦って、結果は1勝1分け2敗。ベスト16までは到達できたものの、日本が勝利できたのは初戦のコロンビアのみ。しかも相手は、ほとんどの時間帯を1人少ない状況で戦っていた。そうして考えると、やはり世界の強豪にイーブンの状況で勝ち切るには、指揮官が語るように「力が足りない」。その現実を、われわれは厳粛に受け止める必要がある。

 もちろん、過去2回のチャレンジと比べて、前進した部分もあった。まず、今回は初めて戦略的かつ現実的に、ベスト8の壁を突き破るトライをしたこと。グループステージ第3戦でメンバーを大きく入れ替え、このラウンド16に勝負を懸ける戦い方ができたのは、歴史的な出来事と言ってよい。次に、戦力的には圧倒的上位に立つ相手に対して決して受け身にならず、最後まで勝利の可能性を追求したこと。これまた、過去のW杯での戦いを振り返れば画期的なことである。そして、ラウンド16で初めてゴールを2つも記録したこともまた、十分に誇ってよい成果だったと思う。

 とはいえ、わずか2カ月しかない期間での準備には、やはり限界があったと言わざるを得ない。また、この試合での交代の選択肢の少なさを鑑みれば、西野監督が選んだ23人のチョイスが、本当にベストであったとも思えない。ただし準備期間の短さに関しては、これは現場の指揮官の責任ではないことは明らかで、なぜこのような決断が下されたかについては、誰もが納得できる説明責任がJFA(日本サッカー協会)には求められよう。一方で、ラウンド16まで勝ち進んだことによって、日本の課題がより明確になったことは収穫であった。西野監督の言葉どおり、きちんと次の体制に引き継がれることを、今は強く望みたい。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント