組織と精神力こそ、スウェーデンサッカー 基礎を作った2人のイングランド人監督
強豪ひしめくグループFを1位で通過したスウェーデン。そのサッカーはいくつかのキーワードで表すことができる 【Getty Images】
そのドイツが所属するグループFを1位で通過したのが、スウェーデンだ。2006年のドイツ大会以来の本大会出場となる北欧の雄は、ドイツにこそ黒星を喫したものの、2勝1敗で決勝トーナメントに進出。7月3日、ベスト8をかけてスイスと激突する。
スウェーデンのサッカーをいくつかのキーワードで表すと、「4−4−2」「堅守」「組織」「ゾーンディフェンス」となる。W杯本大会グループリーグの3試合、そしてイタリアとオランダを敗退に追いやった欧州予選で見せたこうした特徴は、一朝一夕に確立されたものではなく、長い歴史をかけて同国のサッカーに浸透していった。
「スウェーデン・モデル」を確立した2人の監督
スウェーデンサッカーの礎を築いた1人であるボブ・ホートン 【Getty Images】
サッカーにおける「スウェーデン・モデル」の基礎を作り上げたのは、2人のイングランド人だった。
1974年、イングランド北西部チェシャーからやってきたボブ・ホートンがマルメFFの監督に就任する。ホートンが来るまでのスウェーデンはドイツの影響を色濃く受けており、リベロを置いた3バックを基盤にしたマンツーマンディフェンス、個の力を最大限に生かすスタイルが主流だった。そんな中、ホートンは4−4−2をベースとしたゾーンディフェンスを導入し、攻撃時にはシンプルなロングボールを多用。すると就任1年目でマルメはリーグ制覇を達成し、78−79シーズンにはUEFAチャンピオンズ・カップ(現チャンピオンズリーグ)で準優勝に輝いた。
ホートンは「スウェーデンに革命を起こした」と高く評価される一方で、そのスタイルを疑問視する声もあった。ホートンが率いたマルメは国内でも屈指の戦力を備えており、彼が指揮を執らなくても優勝していた可能性があったからだ。さらに、ホートンの展開したサッカーは娯楽性に乏しいと言われており、敵地の試合では相手サポーターから「ホートンはサッカーを破壊している」と嘲笑されることもあった。スウェーデンのサッカー界は、「勝利」と「娯楽性」の間で大きく揺れ動いていた。
2人が築いた土台を発展させたエリクソン
イングランド代表で指揮を執ったエリクソン。ホートンとホジソンが築いた土台をさらに発展させた 【Getty Images】
戦力的に乏しかったハルムスタッドの快挙はスウェーデンのサッカー界に大きなインパクトを与えた。当時ハルムスタッドで主将を担っていたペール・オーグレン氏は「ロイ(・ホジソン)によってスウェーデンのサッカーはイングランド式に近づいた」とコメントしている。
ハルムスタッドの地元紙『ハッランズポステン』のオーベ・ビクストロム氏は「ホジソンはスウェーデンサッカー界のレジェンドだ」と絶賛する。余談ながら、清水エスパルスのヤン・ヨンソン監督は現役時代の大半をハルムスタッドで過ごし、ホジソンの薫陶(くんとう)を受けた人物だ。そんな彼が現在の清水、そして昨年のサンフレッチェ広島で4−4−2を主に採用してきたのは偶然ではないだろう。
こうしてホートンとホジソンが築いた土台をさらに発展させたのが、のちにイタリア・セリエAのラツィオやイングランド代表などで国際的評価を得るスベン=ゴラン・エリクソンだ。スウェーデンの大学で4−4−2をテーマにした論文を執筆するなど、イングランドスタイルのサッカーに感銘を受けていたエリクソンは、79年にIFKヨーテボリの監督に就任。4−4−2をベースとしたゾーンディフェンスに加えて組織力と規律、そしてカウンターアタックをチームに浸透させ、81−82シーズンにはUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)優勝という金字塔を打ち立てた。