組織と精神力こそ、スウェーデンサッカー 基礎を作った2人のイングランド人監督

鈴木肇

個の力で劣るのなら、組織力に磨きをかける

イングランドから輸入したスタイルに、スウェーデン人のメンタリティーを加えたのが「スウェーデン・モデル」だ 【Getty Images】

 イングランドから輸入したスタイルに、スウェーデン人のメンタリティーが加わったのが、「スウェーデン・モデル」だ。

 スウェーデンの著名サッカージャーナリストであるエリック・ニーバ氏は、著書『Den nya varldsfotbollen』(英訳:The new world football)で「スウェーデンらしさ」について紹介している。要約すればこうだ。

「(厳冬により)1年中サッカーができない自分たちは、世界の大国と比べるとテクニックに秀でた選手を輩出するのは困難だ。個々の能力で劣るのなら、チームプレーや組織力に磨きをかけなければならない。ポジションに関係なく、11人全員がハードワークを惜しまず、攻撃時は常にゴールへの最短距離を選択する」

「スウェーデンモデル」は代表チームでも、成功をもたらしている。3位となった94年のW杯米国大会のチームは、4−4−2を基盤とした組織的な守備が最大の武器だった。そして、当時のチームでレギュラーだったパトリック・アンデション、ローゲル・ユング、ヨナス・テルン、ステファン・シュバルツ、マルティン・ダーリンは、いずれもマルメでホジソンの指導を受けていた。

 02年の日韓大会では、4−4−2の3ラインが構築美のごとく連動してディフェンスすることでゴールを堅牢。アルゼンチン、イングランド、ナイジェリアが同居した「死のグループ」を1位で通過した。当時のラーシュ・ラーゲルベック監督は、自身のサッカー観に影響を与えた人物としてホジソンとホートンの名を挙げている。

決して万人受けするスタイルではないが……

世界的なビッグネームもいなければ、華麗なパスワークもない。だが、それこそが「自分たちのサッカー」なのだ 【Getty Images】

 現在の代表チームもこうした伝統を受け継いでいる。それは、これまでの戦いぶりを見れば明らかだ。さらに、精神的な強さを重要視していることも特長といえる。ヤンネ・アンデション監督は、自らのポリシーについて以下のように語る。

「チームスポーツに携わる者は、自分はシステムの一部であるということを理解しなければならない。そして、チームメートの良さを引き出す必要がある」

「サッカーとは、戦い、気持ち、モラル、自己犠牲の精神だ。クオリティーや戦術も重要かもしれない。だが、もっと大事なのは『ピッチに立ったら走り回れ』ということだ」

 ちなみに、アンデション監督の前任者エリック・ハムレンは「スウェーデンらしさ」と対極の道を選んだ。組織よりも個を重要視し、ズラタン・イブラヒモビッチ中心のチームを作り上げようとした。そんなハムレンのチームは、前回のブラジル大会では欧州予選で敗退。欧州選手権(ユーロ)に関しては、12年大会と16年大会に連続して出場したが、本大会では何のインパクトも残せずグループリーグで敗退した。「戦術がない」と多方面から批判されたハムレン監督を招へいしたことは、スウェーデンサッカー協会にとって、決して最良の選択ではなかったといえる。

 決勝トーナメント進出を受けて、スウェーデン国内では、3位入賞を果たした94年の米国大会の再現を期待する声が多く上がっている。世界的なビッグネームもいなければ、スペインのような華麗なパスワークが見られるわけでもない。決して万人受けするスタイルではないだろう。だが、それこそがスウェーデンにとって「自分たちのサッカー」なのだ。そんな“ブローギューラ(代表チームの愛称。青と黄の意)”がどこまで勝ち進むか、楽しみだ。

2/2ページ

著者プロフィール

1978年生まれ。埼玉県出身。1994年米国W杯で3位入賞したスウェーデン代表に興味を持ち、2002年日韓W杯ではデンマーク代表の虜になり、スカンジナビアのサッカーに目覚める。好きな選手はイェスペア・グロンケア。自身のブログ(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/swe1707/)でスカンジナビアのサッカー情報を配信中。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント