消化不良のポーランド戦を戸田和幸が分析 議論すべきは「長谷部投入後」ではない

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日本代表はポーランドに敗れながらも決勝トーナメント進出を決めた 【写真:ロイター/アフロ】

 サッカー日本代表は6月28日(現地時間、以下同)、ワールドカップ(W杯)ロシア大会のグループリーグ第3戦でポーランド代表と対戦。0−1で敗れたものの、他会場の結果により、グループ2位で決勝トーナメント進出を決めた。

 日本はこの試合、セネガル戦から先発を6名変更し、4−4−2の布陣で臨んだが、前2戦のように効果的な攻守のオーガナイズを見せることができず、カウンターで何度も危険な場面を作られた。そして後半、セットプレーからヤン・ベドナレクにゴールを決められて敗戦を喫した。

 この試合を、サッカー解説者の戸田和幸さんはどう見たのか。データスタジアム株式会社のデータを用いながら分析してもらった。

ポーランドが早期敗退してしまった原因とは?

プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション 【データ提供:データスタジアム】

 われわれの代表チームが見事、決勝ラウンド進出を決めた。決めてくれました。

 日本にとっては、今回でまだ6度目のチャレンジとなるW杯。世界最高を決める大会に出場するだけでも十分素晴らしいことです。4年に一度しか開催されない大会だからこそ、この大会に懸ける各国の意気込みにはすさまじいものがあります。ドイツを見れば分かるように、1つボタンを掛け違えれば途端に奈落の底へと転落してしまう、究極に厳しく難しい大会。それがW杯です。

 大会終了後には検証しなくてはならないことはさまざまあるのでしょうが、まずは決勝ラウンドへと進んでくれたことを素直に喜び、代表チームに関わっている全ての人たちに感謝の意を表したいと思います。

 ちょうどモスクワの空港に到着したタイミングでこの試合が始まったので、トランジットの間、私はレストランで観戦しました。横のスクリーンではコロンビアvs.セネガルの試合も放送されていたので、ゴール前の場面も多く、セネガルがゴールを決めてしまうのではないかと最後まで気が気ではありませんでした。

 この試合の焦点は、ポーランドが既に敗退が決まった後の試合に、どういったメンバーと心構えで臨んでくるのか。そして負けなければ決勝ラウンド進出が決定する日本のメンバーと戦い方。この2点だったと思います。

 まずポーランドが敗退してしまった直接の原因は、大会初戦の前半にあったと思います。直前のテストマッチでチリに2−2(6月8日)、リトアニアに4−0(6月12日)という結果をもってセネガル戦に臨むことになりましたが、直前の2試合で組んだセンターバック(CB)コンビではないセット(ミハウ・パズダンとチアゴ・チョネク)で一番重要な初戦に臨んだということを見ても、最後尾の人選について最後まで頭を悩ませていたことが分かります。

 ポーランドの劣勢を招いた原因はいくつか考えられます。セネガル戦の前半は日本戦と同じく4−2−3−1で臨み、グジェゴシュ・クリホビアクとピオトル・ジエリンスキのどちらかが最終ラインに入り、3バックでビルドアップを行いました。しかし、この「どちらかが下りる」という役割分担が明確ではなかったことで、3バックの形を効果的に形成できませんでした。そして後ろが1枚増えたにもかかわらず、両サイドバック(SB)の位置取りが低いままで、セネガルの守備陣形に「配置変更」を強いることができなかったこと。「ボールを保持してゲームをコントロールしたい」という狙いで試合に臨んだポーランドが、4−4−2で構えるセネガルに対し、自分たちのオーガナイズをうまく作ることができなかったこと。後ろを3枚にしてビルドアップを行うも効果的な形でハーフラインを越えることができず、何度もロストを繰り返してしまったこと。これらが原因として挙げられると思います。

 セネガルの両サイドハーフ、サディオ・マネとイスマイラ・サールが「斜め後ろ」に長友佑都と酒井宏樹を見なくてはならなかった日本戦とは違い、4バックでのビルドアップに対して守備を行う時と同じポジショニング、マネとサールが常に「斜め前」にウカシュ・ピシュチェクとマチェイ・リブスを見て、相手ゴールに向かって守備を行えたことがセネガルに勢いを与えることになり、ビルドアップを効果的に行うことができずにポーランドが劣勢に陥ってしまった原因だと思いました。

 あまりにうまくいかなかった前半を経て、ポーランドは後半に入ると3バックに変更。よりスタートポジションをはっきりさせ、同じように「ボールを保持してゲームをコントロール」しようと試みましたが、今度はバックパスをかっさらわれての失点を喫し、1−2で初戦を落としました。

9番にボールを届けられないポーランド

吉田がレバンドフスキ(左)と対峙する 【Getty Images】

 ポーランドというチームは「ボールを保持していなくても」サッカーができるチームでした。そしていざボールを奪った後、ゴールを目指す彼らの武器は「カウンター」、そして「クロスボール」でした。

 長くチームを率いているとマンネリが生まれることは間違いなく、新しいことに挑戦したいという気持ちも生まれてくると思います。サッカーも常にブラッシュアップ、アップデートを繰り返していかなくてはならないわけですが、ポーランドの最前線には彼の存在がチーム戦術を決めることになるくらい重要な、世界でも3本の指に入る9番・ロベルト・レバンドフスキがいます。

 このレバンドフスキにいかに効果的に、効率よくゴール近くでボールを渡せるかが、彼らがW杯を勝ち上がっていくための必須テーマだったはずです。しかし、実際にわれわれが見ることになった彼らのサッカーは、9番までボールを「届けられない」サッカーとなってしまっていました。

 また大会直前にDFリーダーのカミル・グリクがけがをしてしまい、初戦・2戦目と先発できなかった(2戦目は後半35分から出場)ことも、最終ラインの不安定さに大きく影響したのは間違いなく、それがチームの基盤をぐらつかせてしまったということも言えるでしょう。

 こうした伏線があって初戦に敗れ、グループリーグ突破に向けて一気に雲行きが怪しくなってしまったため、アダム・ナバウカ監督はメンバーもシステムも大幅に変更。オプションとして用意した3バックで2戦目に臨みましたが、コロンビアの前には歯が立たず。3トップ気味のプレスに加え、フアン・クアドラードが一列下がり、ウイングバックのリブスに対峙する守備に変更されてからはほぼノーチャンスとなってしまい、0−3で敗れてしまいました。

 しっかりとした守備から、レバンドフスキのポストを生かしたカウンターとサイドからのシンプルなクロス。これが何よりのポーランドが持つ強みだったはずでしたが、より「上手に」前線までボールを運び、ゴールを目指すサッカーを目指した結果、彼らの持つ一番のストロングポイントは、その姿をほとんど見せることなく終わってしまいました。

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