消化不良のポーランド戦を戸田和幸が分析 議論すべきは「長谷部投入後」ではない

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狙われていた左サイド、足らなかった予測

ボールを奪ったエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】

 ベドナレクに決められた失点場面を、少しさかのぼって振り返ってみましょう。相手ゴールキックを拾った柴崎から、真横に立っていた山口へ短いパスが出たところを、クルザワにカットされます。こぼれたボールを柴崎が斜め右前方の武藤へパスを出すも、再びクリホビアクにカットされてしまい、結果的にボックス近くまで運ばれたところで、山口がクルザワを倒してFKを与え、そこからの失点でした。

 また、多くの危険なカウンターを受けてしまったきっかけの方に目を向けてみると、この試合の日本の攻撃は、それまでのように中央で起点を作ることができなかったことも影響していると思いますが、サイドからの単調な攻撃にやや終始してしまった感がありました。

 日本はこの試合、左サイドから10本クロスを上げていますが(右からは3本)、そのほとんどを跳ね返されています。左SHでの出場となった宇佐美にボールが渡ると、必ずと言っていいほどジャストのタイミングで長友がスプリントをかけ、内・外両方からオーバーラップをしていましたが、宇佐美が選択するプレーはカットインからのシュート、もしくはクロスがほとんどでした。

 後半8分の場面では、カウンター気味の展開で大迫勇也からフリーでパスを受けると、長友がグロシツキを置き去りにする形で内側から背後へと走りましたが、宇佐美はパスを選択するのではなくカットインからのシュートを選びブロックされています。そして、そのこぼれ球から決定的な場面を作られました。

 また、後半17分にも待ち構えているポーランド守備陣に向かってインスイングでのクロスを選択。跳ね返されたところからカウンターが発動し、クルザワからグロシツキへのパスがずれたためにスローインとなりましたが、ミスなくつながっていてもおかしくない場面でした。もし、きちんとグロシツキの足元にパスが渡ってしまっていたら、彼の眼前には日本の選手は誰もいなかったので、確実にボックス近く、もしくは中まで運ばれてしまっていたでしょう。

 こうした攻撃の単調さに加え、攻から守に切り替わった瞬間の中盤2人のポジショニングと判断も、効果的とは言い難いものでした。

 前半37分の場面、山口は空中のボールにチャレンジすることを選択しましたが、競り負けて入れ替わられてしまいました。後半39分の場面でも、ハーフスペースで受けた乾貴士がヤツェク・ゴラルスキに奪われた後、パスを受けたクリホビアクの前に柴崎が戻ってきたことで縦パスを選択するのを止め、斜め前のジエリンスキにパスが出ます。斜め前にパスが出たこのタイミングで、次はどこにボールが出てくるのかという予測は、もう何度も日本の左サイドを狙われていたことを考えれば、しっかりとできていなくてはならない時間帯でした。

 山口が2メートル距離を空けたまま前に出ることなく見てしまった結果、ジエリンスキからグロシツキへとパスが出てしまい、最終的にレバンドフスキまでボールはつながってしまいます。吉田の必死の戻りが功を奏したのでしょう、まさかのシュートミスで救われることとなりましたが、もしここで2点目を奪われていたら、日本のW杯は終わっていた可能性は高かったと思います。

 この試合において、前半から何度となく、ポーランドが狙っていた日本の左サイドからの攻撃。後半29分まで試合が進んでもなお彼らが狙っていたカウンターで、これ以上ない決定的な形を作られてしまったことについては、次に向けての反省材料としなくてはならないと思います。

 負けなければ勝ち上がることができた日本にとって、長友の攻撃参加自体が本当に必要だったのか。本人のやる気やコンディションの良さとはまた別の視点で冷静に考えた時に、ポーランドは前半から明らかに日本の左サイドを狙ってきていたわけですから、ハーフタイムの時点でコーチングスタッフからの何かしらのアドバイスや、攻撃参加自体に対する制限がかかっても良かったのではないでしょうか。

 また最終ラインというところで見てみると、基本的には攻撃からの守備となり、リアクションでの対応となるので難しい試合にはなりました。後半8分の決定的な場面では、宇佐美のシュートをブロックした後のこぼれ球をジエリンスキに拾われ、ハーフラインより手前まで下りて、クルザワからの浮き球でのパスを受けたレバンドフスキに対し、槙野が遅れる形で食いついてしまいました。レバンドフスキのポストプレーから、前方に走るジエリンスキへとパスが出されると、槙野も入れ替わってしまい、完全に置き去りにされてしまいました。ジエリンスキからグロシツキの前方スペースへとパスが出てしまった時には、後ろには吉田しか残っていないという、この上なく危険な状況を迎えてしまっています。

 ビルドアップ時に後ろの人数を増やしてズレを作ったところから敵陣へと入っていくことは、全く問題ないと個人的には考えます。が、であれば長友が飛び出していった後のスペースの管理、それからこぼれ球への準備と厳しい対応については、もっと最終ラインと中盤センターの2人がこれ以上ないレベルでセンサーを働かせながら、時には戦術的な判断によるファウルを使ってでも、ポーランドのカウンターの「芽」を摘む必要は間違いなくあったと思います。

 また後半8分、後半17分、後半29分とカウンターのきっかけとなってしまった日本の左からの攻撃についても触れておきます。グロシツキの守備がよくないということは予備知識として絶対に持っておかなくてはならないものでしたが、果たしてきちんと選手に伝わっていたのかどうか。仮に選手たちにその情報が渡っていたと仮定すると、後方からのビルドアップに対して高めの位置取りをする長友とセットで宇佐美がしっかりタイミングを合わせて内側レーンに入ってきていれば、より効果的な形で攻撃が仕掛けられたのではないかと感じました。加えて宇佐美に対しては、彼自身のカットインをより効果的なものにするためにも、オーバーラップした長友をシンプルに使ってあげる必要があったと思います。

議論すべきは「長谷部投入後」の戦い方ではない

試合終盤に難しい決断を強いられた西野監督 【写真:ロイター/アフロ】

 長谷部を投入してからの日本の戦い方についてを国内外にていろいろと言われているようですが、これは生きるか死ぬかの戦いです。他国に何を言われようが気にすることはありません。僕の個人的な意見は、あの時間までの試合展開を考えると、残念ながらあれ以上の選択肢は存在しなかったのではないかと考えます。

 あれだけ何度も危険なカウンターを許してきた試合の終盤において、得点を奪うためにさらにリスクを負ったらどうなってしまうか。もし2失点目を喫してしまったら、問答無用でW杯から去ることになっていた可能性が高い。そういう状況下での決断になります。

 本当は攻めて得点を奪いにいきたかったと思います。しかし残念ながら、あの試合展開では得点を奪いにいくこと自体があまりにリスクが高すぎて動くに動けず、試合前の状況から考えれば決して好ましくはない「他力」に期待したのではないか。あの時間帯から何かを「起こす」ことは期待できなかった、だから他力ではありますが、そのまま試合を終えることを選んだのではないかと、そう思いました。

 ですから、われわれが議論の対象にすべきは、長谷部をピッチに送り込んでからの残り8分間の戦い方についてだけでなく、この試合を勝つために選ばれたチームについて。また、ポーランドの右サイドからの速い攻め、危険極まりないカウンターを何度も許してしまった戦い方についてまず議論すべきだと、個人的には考えています。

 なぜあれだけ前半から狙われていた日本の左サイドでのカウンターを、後半になってもなくすことができなかったのか。ハーフタイムを含めて、実際にグロシツキのサイドからの攻撃に対し、具体的な指示があったのかどうか。そのことについて真実を知ることはできませんが、後半に入ってからより危険なカウンターを受けたことを考えると、どこまできちんと修正を図ろうとしていたのか、そもそも修正しようとしていたのか、何とも言えないところではあります。

ベルギーのワールドクラスの選手にどう対処するか

 次の相手はベルギーです。全ポジションにインターナショナルレベルの選手がそろっており、その中に数人のワールドクラスが存在しています。一番前には、レバンドフスキとタイプは違えど、驚異的な身体能力とゴール前での繊細なテクニックを持つロメル・ルカクという怪物がいます。

 シャドーには今大会非常に状態がよく見えるワールドクラスのアタッカー、エデン・アザール。そのもう一列下には、所属クラブほどの輝きは放てていないものの、とてつもない頭脳と視野の広さを持ち、決定的なパスが出せるケビン・デ・ブライネが控えています。

 いかに効果的に守備を行い、相手が嫌がる形でボールを保持することができるか。次の相手は3バック。大迫と香川真司を縦関係にして、乾と原口元気をトビー・アルデルワイレルト、ヤン・ベルトンゲンに当ててプレッシングを行うのか。

 1トップ2シャドーのベルギーに対し、ここを意識した守備を行うか、もしくはあくまでもボール中心の守備を行うのか。アザールとヤニック・カラスコのいる左サイドは守備面ではネガティブ要素になるので、そこを徹底して突くことができるか。

 決勝ラウンドまで進んでくれたわれわれの代表が、消化不良に終わったポーランド戦を経て、次はどんな戦いを見せてくれるのか。ベルギー戦は、僕もスタジアムで応援することとなります。具体的で効果的なゲームプランを携えつつ、臆することなく強国に立ち向かってくれるであろう日本の戦いを、1人の日本人として心から期待し、応援したいと思います。

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