アイロニーを含んだ日本代表のGL突破 次のステージを目指し、新たな次元に到達

宇都宮徹壱

「負け切る」という不思議な展開

他会場の結果により、0−1で「負け切る」ことを選んだ日本。2位通過で決勝T進出が決定した 【Getty Images】

 日本代表がワールドカップ(W杯)のグループHを2位通過することが決まった時、私がまず考えたのは「1位通過の宿と飛行機をキャンセルしないと」というものであった。もちろん、ここまで頑張ってきた選手やスタッフ、そして西野朗監督には心から感謝している。それでも、デンマークを3−1で撃破してベスト16進出を決めた南アフリカ大会のような高揚を、今回は感じることはなかった。すでに経験しているからだろうか、それとも微妙な試合の終わり方ゆえであろうか。

 試合後の西野監督の会見。記者からの最初の質問は、ポーランドに0−1で負けている状況で、ラスト8分(アディショナルタイムを含めると11分)の間、攻めの姿勢を見せることなく試合を終わらせたことに関するものであった。質問を受けてから、指揮官が最初の言葉を発するまで、7秒ほどの間があった。

「非常に厳しい選択。万が一(ポーランドに2失点する)という状況は、このピッチ上でも考えられましたし、もちろん他会場でも万が一はあり得た。それで選択したのは、そのまま(0−1のスコア)の状態をキープすること。このピッチで万が一が起こらない状況を選びました。これは間違いなく他力の選択だったということで、ゲーム自体で負けている状況をキープしている自分、というのも納得がいかない……」

 リードを保ったまま試合を殺すのではなく、むしろ0−1で「負け切る」という不思議な展開。あらためて、西野監督が「非常に厳しい選択」を迫られた状況を整理しておこう。グループHは2試合を終えて、日本とセネガルが勝ち点4で首位に並び立っていた。日本はボルゴグラードで、すでにグループ敗退が決まっているポーランド(勝ち点0)と対戦。セネガルは同時刻にサマラで、逆転でのグループ突破を目指すコロンビア(同3)と雌雄を決する。日本が勝つか引き分ければ、無条件でラウンド16進出が決定。仮にポーランドに敗れたとしても、裏の試合でセネガルが勝利すればグループ2位での突破が決まる。

 しかしドローとなれば、コロンビアに得失点差で抜かれてグループリーグ(GL)敗退。コロンビアが勝てば、セネガルとの得失点次第ということになる。日本はまず、目前の試合で勝ち点1以上を積み上げればいいのだが、場合によっては裏の試合のスコアを意識せざるを得なくなる。そしてボルゴグラードでポーランドが1点リードする中、サマラではコロンビアがついに先制。それが後半29分のことであった。西野監督の指示を伝えるべく、長谷部誠がピッチに送り出されたのは後半37分である。

勝ち点4ゆえの6人替えを決断した日本

この日のスターティングメンバー。セネガル戦から6人を入れ替えてグループリーグ最終戦に臨んだ 【Getty Images】

 この日の日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GKは腕章を託された川島永嗣。DFは右から酒井宏樹、吉田麻也、槙野智章、長友佑都。中盤はセンターに山口蛍と柴崎岳、右に酒井高徳、左に宇佐美貴史。そしてFWは岡崎慎司と武藤嘉紀。セネガル戦から6人のメンバーを入れ替え、システムもこれまでの4−2−3−1から4−4−2に変更。しかも酒井高をDFではなく、1つ前の右MFに起用する奇策ぶりである。この2試合、ハードワークを強いてきた原口元気と乾貴士を休ませたのは理解できるが、長谷部誠も香川真司も昌子源も、そして大迫勇也もいない布陣には、いささかの不安を覚える。

 思えば8年前、日本が決勝ラウンド進出を果たした時は、グループリーグ3試合をスタメン固定で戦ってきた。結果としてグループ2位突破を果たしたが、ラウンド16でもメンバーは変わらなかったため、スタメン組の疲労度は限界にまで達していた。一見すると苦肉の策のようにも思える今回のメンバー構成は、グループリーグ突破以降、すなわち「本気でベスト8進出を狙う」という西野監督の強い意思が反映されているように思えてならない。幸い、今の日本には勝ち点4という貯金がある。この貯金こそが、思い切った6人替えの背景にあったのだろう。

 対するポーランドは、GKを含めて5人を入れ替えてきた。これまで出番がなかった選手は3人。そのうちGKのウカシュ・ファビアンスキとDFのアルトゥル・イェンドジェイチクはオーバー30のベテラン。大黒柱のロベルト・レバンドフスキをはじめ、トップ下のピオトル・ジエリンスキ、そしてボランチのグジェゴシュ・クリホビアクはそろってスタメン入り。システムは、セネガル戦と同じ4−2−3−1である。コロンビア戦では3−4−3を試したものの、結果には結びつかず、基本に戻して今大会の有終の美を飾ろうとする意図が感じられる。

 17時にキックオフ。序盤から日本の見せ場を作ったのは、これが初出場となる武藤だった。前半12分、パスカットから武藤が持ち込み、左サイドを駆け抜ける長友にパス。長友がダイレクトでクロスを上げたところに岡崎が頭で狙ったが、ゴール左に外れた。その1分後には武藤が自らミドルシュートを放つも、これはファビアンスキのセーブに阻まれてしまう。対するポーランドは前半32分、右サイドバックのバルトシュ・ベレシンスキからの正確なクロスに、カミル・グロシツキがヘディングシュートを放つも、今度は川島が右手一本で防いで見せた。前半は0−0で終了。裏の試合も同スコアでハーフタイムを迎えた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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