セネガル戦に向け、日本に必要な修正は? 戸田和幸が感じたコロンビア戦の疑問点
香川の特徴をいかにチームとして理解し、活用できるか
クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】
この試合の日本はコロンビアが4−4−2で守備を行うと想定し、長谷部を2CBの間に下げて3対2を作り、ビルドアップする準備をしてきたと思います。もう1つの形として、柴崎岳が吉田の右に下りてきて3枚を形成する場面も見られましたが、ベースの形は長谷部が下がるものだったと思います。
後ろを3枚にするということは、2トップに対してズレを作り、前へボールを運びやすい状況を「意図的に」作り出すということです。ここについてはコロンビアと同じ考えだったと思います。3バックの中央に下りた長谷場からパスを受けた吉田は、インサイドポジションを取った原口に縦パスを入れましたが、モヒカに完璧に読まれてしまい、インターセプトされてしまいました。
実は吉田がコントロールした瞬間に香川が相手中盤の後ろに入り込み、やや斜めの縦パスを受けられる準備が整っていました。香川のこうしたポジショニングは、一瞬で相手の守備を混乱に陥らせることができます。また彼のポジショニングは相手のプレッシングを止める効果があり、味方に時間とスペースを与える役割も果たしています。
こうした香川の特徴をいかにチームとして理解し、活用できるか。それが彼自身の活躍と日本の躍進には絶対に欠かせない要素だということを、今一度声を大にして伝えておきたいと思います。
作った「ズレ」をどう活用するのか?
攻撃のキーマンである香川のプレーエリア。前線の広範囲を動いていることが分かる 【データ提供:データスタジアム】
これは5月30日のガーナ戦の前半にも多く見られた現象で、誰をフリーにさせるのかというイメージの共有がまだ足りていないことを表しています。相手が4−4−2であればビルドアップ時に長谷部が下がって3バックの形を採るというのは、間違いなくこの試合に向けて準備してきたものだと思います。
ビルドアップを始める時に「ズレ」を作り、より効果的に敵陣へと運んでいくことを目指してのオーガナイズですから、よりオートマチックに相手より先にポジションを取ってパスルートを確保した状態を作りたい。ズレを作り、パスルートを確保する。あとはボールを持った選手がどこを選ぶのかという順番になるはずです。
この場面、もし吉田がフリーになった瞬間の酒井宏のポジショニングが、イスキエルドとモヒカの間、中間ポジションを取れていたとしたら、間違いなくモヒカは原口に対してあそこまで明確に奪いには出られなかったはずです。なぜなら、先に原口を捕まえにいけば外側を酒井宏に走られ、自分が出ていったスペースを使われてしまうからです。
加えて、酒井宏がハーフポジションを取ったとして、イスキエルドがどう対応するのか。ここも本来であれば試すべきポイントとなります。
イスキエルドが酒井に付いて下がれば、吉田はそのままドリブルで持ち上がることができます。仮にイスキエルドが内側に入ってきた原口への縦パスのコースを消しにきたら(実際は非常に難しい守備になりますが)、酒井は外側でフリーでパスを受け、原口とワンツーをする。内側からモヒカの背後へと走る原口へスルーパスを通す。もしくは原口が背後へ走ることで空く中央スペースへ斜めのパスを入れ、香川・大迫のコンビネーションや、3人目の動きで原口を使うことも可能です。
結果的に奪われたボールを展開され、コロンビアの攻撃の形の1つである「アーリークロス」をモヒカにフリーで上げさせてしまうところまでいくのですが、昌子が跳ね返したボールを香川が1タッチでスペースへと飛ばし、大迫が能力の高さゆえにポジショニングに難があるD・サンチェスをうまく出し抜いてPKを獲得しました。
サッカーが集団で行うスポーツである以上、常に複数の人間がかかわりながら攻守を行う必要があります。
個の能力でかなわない場合は、より一層充実した組織が重要になり、その組織の上で個々人が目いっぱい自分に与えられた役割を理解した上で、自分にできる何かを表現することがサッカーでは求められます。非常に特殊な状況での試合となった前半、日本は元々のプラン通りに戦ってしまいました。相手が下がっているにもかかわらず、後ろに多くの選手を残した状態でビルドアップを行い、前にボールを蹴り込んでしまうといった「ズレ」が多く見られました。
ペケルマン監督の采配に助けられたところもある
日本は勝ち点3を狙ったペケルマン監督の采配に助けられた面もある 【Getty Images】
ただし、次戦はまた11人対11人の戦いに戻ります。非常に特殊な状況での試合となってしまったからこその不安定さだったのかどうかは、セネガル戦でハッキリします。
1人多い状況でほとんどの時間を戦ったにもかかわらず、あれだけ日本の選手たちが消耗することになったコロンビア戦。特に前半は退場以降の戦い方が定まらず、ボールをプレゼントしてしまう場面が多かった。守備でもプレッシングが曖昧になった結果、コロンビアの選手たちの能力の高さに後手を踏む場面も見られ、非常に苦しめられました。
香川の存在が「中盤センターを強化しなくては」とペケルマン監督に考えさせ、まずは守備を整えるためにまさかのクアドラードを諦めてウィルマル・バリオスを投入させた。1人少ない状況でもあくまでも勝ち点3を狙ってハメス、バッカという交代カードを切ったものの、頼みのハメスは状態がよくなく見え、バッカも1人少ない状況下でファルカオが疲れて動けなくなってしまった前線では思うようにボールを受けられず。
あまりに特殊な状況に追い込まれた中、考えに考えてのペケルマン監督の采配ではあったと思います。ですが、「勝ち点1でも」という考えを持たずに行った采配によって、どっちつかずのサッカーをしてしまったコロンビアの戦い方に、日本は若干助けられたところもありました。
なお、このコラムにて書かせてもらった攻守における疑問点については、スポーツナビに配信しているサッカー動画コンテンツ「0014catorce(カトルセ)」でも図解入りで紹介しています。関心のある方は、そちらも見ていただけるとよく分かってもらえると思います。
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集団でサッカーをするセネガルにどう対応するか
セネガルのシセ監督も試合中にシステムを変える。日本は対応できるか 【Getty Images】
大きくて強く速い、そして集団でサッカーをするセネガルに対し、どんな戦いを見せてくれるのか。ポーランド戦では4−4−2で臨んだセネガルは終始、主導権を握る戦いを見せました。後半にポーランドが3−4−3へと布陣を変更すると、アリュー・シセ監督は4−1−4−1へと布陣を変えます。
3バックの持ち出しに対しては3トップの形をとり、ムサ・コナテ、イスマイラ・サール、サディオ・マネを当てて対応し、グジェゴシュ・クリホビアクとピオトル・ジエリンスキにはインサイドハーフの2人、イドリサ・ゲイエとアルフレッド・エンディアイエを当てるといった守備戦術の微調整を行いました。大エースのロベルト・レバンドフスキにどうにかしてボールを届けたいポーランドに、攻撃の形をほとんど作らせることなく、危なげなく勝利を収めています。
ブラックアフリカ特有の身体的特長を前面に押し出しつつ、そこに一定レベル以上の「組織」を加えたことで彼らの持つ能力はより効果的なものとなり、日本にとっては大きな脅威となります。間違いなく強いセネガル相手に、われわれの代表がどんな戦いを見せてくれるのか。楽しみにしています。