セネガル戦に向け、日本に必要な修正は? 戸田和幸が感じたコロンビア戦の疑問点

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W杯初戦白星を飾った日本代表の戦いを元代表の戸田和幸さんが徹底分析 【Getty Images】

 サッカー日本代表は19日(現地時間、以下同)、ワールドカップ(W杯)ロシア大会のグループリーグ第1戦でコロンビア代表と対戦し、2−1で勝利を収めた。

 開始3分でコロンビアのカルロス・サンチェスが退場したこの試合を、どう振り返るべきなのか。サッカー解説者の戸田和幸さんは、退場者が出る前から日本の攻守における疑問点を感じたという。24日に行われるセネガル戦に向け、データスタジアム株式会社のデータを用いながら、解説してもらった。

コロンビアのスタメンを見て驚いた理由

プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション 【データ提供:データスタジアム】

 初戦のコロンビア戦はW杯直前の監督交代という非常事態もあり、万全の準備とは到底言えない状況で迎えました。開始3分でカルロス・サンチェスが退場になり、残り87分を1人多い状況で戦うという非常に特殊な環境での戦いを、われらが代表チームは苦しみながらも何とかものにしました。

 今回のW杯は初戦で世界チャンピオンのドイツが敗れ、前回大会準優勝チームのアルゼンチンや優勝候補筆頭に挙げられるブラジルが引き分けるなど、多くの波乱が起きています。日本対コロンビアもおそらくは同じところにカテゴライズされる試合になると思われますが、何はともあれ大事な初戦をものにできたことは本当に大きい。

 下馬評が高かったコロンビアからすると、日本戦で確実に勝ち点3を取っておきたかったと思います。スタメンを見ての少しの驚きと、1人少ない状況での選手交代に対する大きな驚き。ひょっとするとグループリーグ突破後を見据えたメンバー選考だったのかもしれませんが、この試合に関しては策士ホセ・ペケルマンのもくろみは外れてしまったと思います。

 ホセ・イスキエルドにフアン・キンテーロ。スタメンの中にこの2人の名前を見つけた時、ちょっとした驚きを覚えました。日本戦の前に行われたエジプト戦(6月1日、0−0)を含め、イスキエルドとキンテーロがスタメンで出場した試合は、自分が見てきた南米予選のブラジル戦(2017年9月5日、1−1)までの9試合の中には1つもありませんでした。

イスキエルドとキンテーロの特徴

ハメスの代役として先発し、直接FKを決めたキンテーロ 【Getty Images】

 イスキエルドはイングランド・プレミアリーグのブライトンに所属し、左に張り出すウインガーに近いサイドハーフとしてチームのプレミア残留に貢献しました。3月に行われたフランス戦(3−2)では77分から左サイドハーフとしてルイス・ムリエルに代わって出場し、決勝点となるPKを獲得する鋭いドリブルを見せました。もう1人の驚き、リーベル・プレート所属のキンテーロも基本的にはバックアッパーです。彼もまたフランス戦には83分から出場し、PKを獲得したイスキエルドに縦パスを通しています。

 左サイドハーフとして出場したイスキエルドのポジションにおいて、スタメン候補となるとマテウス・ウリベ、カルロス・バッカといった名前が先に思い浮かびます。ウリベについては純粋なサイドアタッカーではないですが、外側でも1つ内側のポジションでも、右でも左でもプレーできる選手です。ペナルティーエリア内へ入っていく動きと、ジャンプ力も兼ね備えている。試合中に戦い方を変えることが多いペケルマン監督が、ここ最近の試合、少なくともフランス戦以降は常にスタメンで起用してきた選手で、彼がスタメンにいなかったことには驚きを覚えました。

 バッカに関しては試合中に2トップへの布陣変更にも対応できるという意味も含めて十分に考えられる選択肢でしたが、この試合では後半25分からイスキエルドに代わって右のアタッカーとして出場しました。

 トップ下で起用されたキンテーロは、コンディションが整わなかったと言われていたハメス・ロドリゲスの代役としての出場でした。ハメスの代役というイメージは簡単に持つことができ、左利きのパサータイプの選手です。彼もまた、ここ最近の試合を振り返ってみても、スタメン出場はない。エジプト戦ではウリベに代わって63分から右サイドハーフとして出場しています。エースがコンディション不良だったことを受け、ペケルマン監督は例えばラダメル・ファルカオとミゲル・ボルハの2トップ(個人的にはこの形の方を恐れていた)といった明確な2トップという形ではなく、キンテーロを置いて前線の2人を縦関係にすることを選びました。

 日本の両サイドの攻撃に対してはムリエルやバッカのようなストライカータイプで守備に対してはさほどエネルギーを注がない選手を置くのではなく、フアン・クアドラードとイスキエルドのようにライン際で真っ向から対決できる選手を配置した上で、トップ下に置いたキンテーロのいる中央で変化をつける狙いがあったのかもしれません。

 エースの代わりとして重要なW杯の初戦に起用されたキンテーロは、鋭いスルーパスをクアドラードまで通し、一瞬の動き出しで昌子源のマークを外したファルカオにジャストのタイミングで上質な浮き球のパスを送るといった「判断の伴った技術」を見せました。さらには、素晴らしいアイデアと決断力によるFKで得点を挙げ、監督の起用に応えるパフォーマンスを見せたと言っていいのではないでしょうか。

 各選手の直近のコンディションについては情報が全くないので、あくまでも想像することしかできませんが、ハメスだけでなく、コンディションが整っていない選手が他にも存在したのかもしれないですし、徹底的に情報を遮断してきた中で日本の狙いを外す意図があっての選手選考だったのかもしれません。

 試合を戦うまでにさまざまな情報戦、駆け引きが行われるのがW杯です。コロンビアからすれば確実に勝ち点3を奪いたかったはずの日本戦で、先を見据えていかに効率よく戦うかを考えたのかもしれませんが、想定外のアクシデントによりプランが崩れた。87分間、1人少ない状況での戦いだったにもかかわらず、強気な采配で最後まで勝ち点3を狙いにいきましたが、この試合ではペケルマン監督の勝負師としての勘は外れました。

開始直後に感じた日本の守備の「ズレ」

ボールを奪ったエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】

 試合の展開を見ていくと、開始3分でC・サンチェスが香川真司のシュートを腕でブロックしてしまいレッドカードで退場処分を受けました。これを境に試合は全く別のものとなります。この記事の中では退場者が出るより前に見られた、日本の攻守における疑問点について触れてみたいと思います。

 相手が1人少なくなってからの日本に関しては、特に前半が終了するまでの攻撃について言及する必要はあると思いますが、次戦のセネガルとの戦いに向けてという視点で考えると、11対11の状況で起きていた現象にきちんと目を向ける必要があると考えたので、今回の検証はあえてそちらにフォーカスしたものにしようと思います。

 まずは守備について。西野朗監督は重要な初戦に、パラグアイ戦でチームを機能させてくれた岡崎慎司、香川、乾貴士、武藤嘉紀の4人のうち2人をスタメンに起用しました。

 積極的なハイプレスではなくミドルサードに構えたところから、大迫勇也と香川でスイッチを入れ、外側へ追い出したボールに対して強い矢印を向けて奪いにいく。この狙いは1分に大迫のアプローチを受けたセンターバック(CB)のオスカル・ムリージョから左サイドバック(SB)のホアン・モヒカに出たパスがずれ、コントロールしたボールがラインを割るという場面にしっかりと表れています。

 試合序盤の両チームの立ち方、ボールの動かし方、守備時の陣形を見ると1つ目のゲームプランの想像がつく場合が多い。この試合における日本の守備は、パラグアイ戦で行ったものを、基本的にはそのまま継続という考えで行われていることが理解できる局面だったと思います。

 しかし、コロンビアが相手の守備戦術に対応して中盤の関わり方を変えてくるのも織り込み済みのはずですが、この直後のプレーで結果的には危険な場面を作られることはなかったものの、実は日本の守備には「ズレ」が生じています。

 先に紹介した場面の後、原口元気のスローインを受けた大迫がクロスを上げますが、GKダビド・オスピナがキャッチ。するとコロンビアのセントラルMF、C・サンチェスのパートナーとして出場したジェフェルソン・レルマは、すかさず2CBの間に下りて「3バック」を形成しました。理由は、日本が大迫と香川の2人でダビンソン・サンチェスとムリージョに対峙(たいじ)してくることを「理解」したからです。

 2トップであれば後ろは3枚、1トップであれば2枚でビルドアップを行う。コロンビアのサッカーにはこうしたロジカルな考え方がしっかりと落とし込まれていますので、日本の最初の守備を受けてすぐに、より安全で効果的なビルドアップの形に移行していました。

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