打ち合いになったポルトガル対スペイン 戸田和幸が両チームの「組織」を徹底分析

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安定感を欠き反応が鈍かったスペイン

ボールを奪ったエリアのシェア。自陣の低い位置でボールを奪うポルトガルに対し、スペインは高い位置でもボールを奪っている 【データ提供:データスタジアム】

 一方、急きょ監督が交代するという非常事態の最中、組織として落ち着きを取り戻す前に、この試合を戦うことになったかもしれないスペインのパフォーマンスはどうだったでしょうか。

 ボールを保持することで同時に守備も行い、局面での数的優位を常に作りながらチーム全体で敵陣に押し込んでいくサッカー。仮に奪われたとしても、局面において数的優位を保てているからこその素早い切り替えからのプレッシングでボールを回収し2次攻撃につなげる。これがスペインの掲げているプレーモデルであると認識していますが、その視点で見ると前半に関しては危険なカウンターをいくつか作られてしまい、やや安定感に欠けました。

 序盤からミドルサードまで下がってブロックを形成するポルトガルに対し、スペインは主に左インサイドハーフのイニエスタを中心に敵陣へと入り込んでいきましたが、バランスよくポジションを取りながらもブロックの外側でボールを持ち動かすことが多く、そこから中に入れ込んだところを狙われロストする場面が見られました。

 また、失った後の対応も若干遅かったように思います。ポルトガルのゲームプランが「奪ったら素早く前線のゲデスへ」というものであったと思われますが、セルヒオ・ラモスとジェラール・ピケの両センターバック(CB)の対応にも遅れがありました。先制点となったロナウドのPK奪取につながった場面では、ブルーノ・フェルナンデスへのロングパスを選択したペペに対する寄せも甘く、ヘッドでロナウドへとつないだブルーノへの寄せもなく、チーム全体としての反応が鈍かったため、最も警戒しなくてはならないロナウドにドリブルでボックス内まで入り込まれてしまい、開始早々にPKを与えてしまいました。

 10分を過ぎるあたりまでのスペインは、ボールを持てはしましたが効果的なところまでは運べず、また奪われた後の対応も遅く、相手の狙い通りにさせてしまった感が否めませんでした。5分すぎにも左サイドでのパス交換にズレが生じボールロストし、ペペからゲデスにミドルパスが出ますが、この時もCBの2人はゲデスを離してしまい、起点を作られています。先制点を与えてしまい、なおかつ相手はブロックを敷いてカウンターを狙ってくる。4年前のオランダ戦を思い起こさせる展開となりました。

 この時と違ったのは、相手の守備戦術がマンツーマンではなかったということ。つまりハーフポジションを取るイスコ、イニエスタ、シルバに対してポジションを離れてでもタイトなディフェンスを行ってはこなかったので、徐々にではありますが望むポゼッションができるようになり落ち着きを取り戻せたように見えました。

左がイスコ、右はD・シルバのプレーエリア。スペインのMFがどれほど流動的に動いているかが分かる 【データ提供:データスタジアム】

 加えて、右のウイングポジションでのスタートとなったシルバが左にまで動き左右非対称な形を作り、あえてバランスを崩したことでイニエスタやイスコをフリーにさせ、数的優位を作ったことが、バランスよく立ってブロックを作ったポルトガルにとっては難しさを生み出したと思います。

 ポルトガルの2トップの脇でイニエスタが、またはイニエスタと入れ替わる形でイスコがピックアップし、それと同時にアルバが幅を取りつつ、ジエゴ・コスタが同サイドへ流れる動きを見せ、または前述したシルバもボックス角近くまで入ってくることで、アンバランスではありますが、ボールホルダーであるイニエスタやイスコに対するプレスを止めていました。

 圧倒的なポジショニングのセンスと、狭い空間でも間違えない判断力と技術を持った選手たちだからこそできる芸当なのだとは思いますが、中央に構えるウィリアム・カルバーリョとモウチーニョの周辺に多く人を配置。特にポルトガルの右サイド、モウチーニョの周辺で入れ替わり立ち代わり前を向く選手を作り、外・内の使い分けも素晴らしく、足元でのパス交換だけでなく相手を止めている間に背後のスペース目掛けてアルバが飛び出す動きを見せるなど、15分手前あたりから、スペインはこのサイドからボックス内へと侵入していく形が多くなりました。

互いのカラーがぶつかりあうシーソーゲーム

イニエスタ(右)を中心に決定機を作ったスペイン、互いのカラーがぶつかり合うゲームに 【Getty Images】

 徐々にスペインがゲームをコントロールできるようにはなりましたが、そんな中でも22分にはCKからポルトガルはカウンターで決定機に近い形を作り出します。ブルーノ・フェルナンデスからのスルーパスを受けたロナウドからゲデスへ、ボックスに入ったあたりでアウトサイドでの丁寧なパスが出ました。ゲデスがそのままシュートではなく、コントロールしたことでアルバの戻りが間に合い、シュートは打たれずに済みましたが。

 試合の流れが変わる潮目があるとして、もしゲデスがコントロールすることを選択せずに1タッチでのシュートを選んでいたら、試合はまた全く別のものになったと思います。その1分後にはイスコに入ったところで後ろからセドリック・ソアレス、前からモウチーニョが挟み込み、再びポルトガルのカウンターが発動。クロスまで持ち込むものの、跳ね返したこぼれを拾ったところから、セルヒオ・ブスケツのロングパスがコスタに渡り同点に追いつきました。

 この得点をスペインらしくない形だと言うことはできますが、コスタの特徴を考えてみれば、スペースがある状況で使うことが、より効果的だとブスケツは理解しているからこそのプレー選択だったと思います。危険なカウンターを与えるも、追加点を奪われる前に追いつくことができたのは、スペインにとって非常に大きかったと思います。

 イニエスタとイスコの、お互いをフリーにさせる入れ替わりの動きや右から流れてくるシルバのポジショニングもあって、スペインはどんどん敵陣での時間が増えていきます。35分には左サイド、ハーフスペースをうまく使った攻撃を仕掛けて決定機。イニエスタと入れ替わりやや低めの位置で出し手となったイスコからコスタへ縦パスが入り、最後は深い位置まで入り込んだアルバからのクロスをイニエスタが左足で合わせるも惜しくも枠を外れ……という場面も作ります。

 そんな中、再びポルトガルが長いボールを使い、オフサイドにかからないポジション取りをしたゲデスが収めたボールをロナウドが決めて勝ち越します。ここでもスペインの2CB、特にピケが自分の横にいたゲデスをフリーにさせてしまい、起点を作られてしまっています。

 この失点について考える時にダビド・デ・ヘアのキャッチミスを切り離して考えることはできません。しかし、ポルトガルが立ち上がりから続けてきた中盤を省略して前線、特にゲデスへというサッカーに対して、前半終了間際になっても対応し切れていないことについては非常に気になる部分です。

 ロナウドの素晴らしいFKによる同点ゴールの場面も、ややパワープレー気味ではありましたが、ウィリアム・カルバーリョからロナウドに出たロングパスに対して競る選手を作ることができず、ロナウドのFKを得るうまい動きもありましたが、試合序盤から続けてきた中盤を省略して前線へというポルトガルのプランに対し、最後までやや後手を踏んでしまったスペインの最終ラインの対応については、デ・ヘアの不安定なパフォーマンスも含めて次戦に向けた課題と言えるのではないかと思います。

組織があってこそ、個人が輝く

組織があってこそ、個人が輝くのがサッカーというスポーツ 【Getty Images】

 後半に入ってからのポルトガルは、スペインが彼らの守備により適応してパフォーマンスレベルを上げたこともあり、相当に厳しい展開を強いられたと思います。

 スペインはイスコが左だけでなく右にまで顔を出すようになり、イニエスタに代わってチアゴ・アルカンタラが入るとさらに中盤から前進していく力が加わったため、両サイドのハーフスペースと、カルバーリョとモウチーニョの背後をバランスよく攻略できるようになりました。一方でポルトガルの中盤は、奪うポイントを見つけられずに立ちすくんでしまう場面も見られるようになります。

 左サイドボックス脇への巧みな進入からナチョ・フェルナンデスのスーパーボレーで逆転に成功し、徐々に足が止まり始め、疲弊した両サイドハーフを交代するも効果的な攻撃は見せられないポルトガルに対し、スペインはコスタをイアゴ・アスパスに代えて、より集団で効果的にボールを保持しながら試合をコントロールするプランに切り替えます。

 さらにはシルバからルーカス・バスケスにバトンタッチすることで、よりサイドにふたをしながらカウンターを狙うフェーズに入ったところでの、ロナウドのスーパーなFKによる同点弾でした。

 強固な守備ブロックを築き、2トップを生かすという明確なゲームプランはありながらも、やはりスペインはうまく賢く。一方、時間を追う毎に焦燥感にかられ、苦しい展開が続いたポルトガル。ここで決めてくれたらーー誰もがそう願う重要な場面でこそ仕事をする、それがスーパースターの定義だとしたら、やはりクリスティアーノ・ロナウドは歴史にその名を刻むスーパースターだということを、あらためて証明した試合となりました。

 どんなに劣勢でも、この男がピッチにいれば何かを起こしてくれる。そう思わせてくれるのがロナウドであり、リオネル・メッシでありネイマール。そして今大会はモハメド・サラーも同じステージに足を踏み入れることができるのかを試される舞台となります。

 サッカーは完全なるチームスポーツ。1人として決して1人ではプレーすることができない、チームがあってこそのスポーツ。しかし、チームを構成する上でそのチームにどんな選手が存在しているのかで、チームそのものの作り方に大きな影響を与えるのもサッカーです。

 1人の選手が持つ圧倒的な存在感、一瞬で試合を動かしてしまう力。

 チームスポーツだからこその美しさを強く感じた素晴らしい試合だったにもかかわらず、まるでたった1人で試合を動かし決めてしまっているかのように感じさせてしまうくらいのすごみを、クリスティアーノ・ロナウドという偉大な1人の選手から、強烈に感じさせられた一戦でもありました。

 組織があってこそ、個人が輝くのがサッカー。

 ポルトガルにはポルトガル特有の組織があり、その上で歴史に名を残すことになる選手がとてつもない存在感を示した試合。世界トップレベルの選手たちが国を背負い、プライドを懸けて戦う4年に一度のW杯。どの試合も非常に熱のある、強度の高いサッカーが展開されています。

 われわれの代表がどんな姿を見せてくれるのか、期待と不安の両方を感じながら。その時を待ちつつ、全てを懸けて戦う男たちのサッカーから多くのことを学んでいきたいと思います。

※敬称略。本スタッツデータは公式とは異なる場合があります。

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