カザンでの最終調整に入った日本代表 一体感を生んでいる西野監督のチーム作り

飯尾篤史

ルビン・カザンの豪華な施設で最終調整

日本代表がカザン入り。最終調整がスタートした 【写真は共同】

 温度計は19.2度を表示しているが、体感温度はそれよりも2、3度は低いように感じられる。風は冷たく、日陰に入ると思わず身体がこわばってしまい、ウインドブレーカーや薄手のコートなしでは過ごせそうもない。だが、地元の人に聞くと、それでもここ数日で一番暖かいという。

「思ったよりも寒いですね」

 そう語ったのは、長谷部誠である。2010年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会直前にキャプテンに任命され、3大会連続して腕章を巻くことになるリーダーが続ける。

「サッカーをするには非常にいい気候だと思います。南アフリカ、ブラジルを経験していますけれど、あのときはとにかく暑かったイメージがある。今回はそういう感覚はないですね」

 前日にオーストリア・ゼーフェルトキャンプを打ち上げた日本代表が6月14日、ロシアのカザンで最終調整をスタートさせた。

 キャンプ地として使用するのはロシアリーグ1部、FCルビン・カザンの施設である。敷地内には天然芝のピッチが3面、小規模のスタジアムを含めて人工芝のピッチが5面あり、地上4階建ての宿泊施設にはジムやプール、サウナなどが完備している。長友佑都も「こんなに充実したクラブハウスは見たことがない。(所属していた)インテルよりもすごいです」と、頬を緩めるほどの豪華な施設だ。

 トレーニング前にはモスクワの日本人学校の子どもたち、ルビン・カザンのアカデミーの子どもたちと写真撮影やサイン会が行われた。子どもたちの一番人気は、本田圭佑だった。CSKAモスクワに所属していただけに、ロシアでの知名度は抜群のようだ。

岡崎、昌子は別調整も大事には至らず

早川コンディショニングコーチ(先頭)のもと、各選手の負荷を調整しながらトレーニングを行った 【写真:ロイター/アフロ】

 その後、大勢のファンが見守るなか、トレーニングが始まった。早川直樹コンディショニングコーチを先頭に選手、コーチングスタッフがピッチを駆けていく。

 そのさなか、異変が起きた。岡崎慎司と昌子源がスピードを緩め、集団から離れたのだ。広報によれば、岡崎は両ふくらはぎに、昌子は右太ももに張りを覚えているとのこと。ただし、大きなケガではないというから安心だ。

 続いて脈を測りながらタイム走に入った。その途中、今度は12日のパラグアイ戦で出場時間が長かった香川真司、山口蛍、乾貴士、植田直通、武藤嘉紀、柴崎岳、酒井高徳の7人が外れ、クールダウンに移る。

 残ったメンバーでボールを使ったメニューに取り組み、最後はGK3人もフィールドプレーヤーとして参加した7対7のミニゲームでトレーニングは終了した。9日のスイス戦で腰を傷めて以来、別メニューの続く大島僚太はこの日も強度の高い練習には加わらなかったが、ミックスゾーンでは「かなり良くなっています」と笑顔を見せた。

23人の間に温度差をまったく感じない

 その後、一部の選手たちが自主練習に近い形で、シュート練習を行う中、先に上がった選手たちがミックスゾーンに姿を現した。

 ロシアに入ったとはいえ、初戦までまだ5日ある。「平常心ですね」(宇佐美貴史)、「いつもどおりです。変わっていないです」(乾)、「高ぶりは感じていないです」(柴崎)と、選手たちは落ち着いているようだ。

 選手たちの話を満遍なく聞いて感じるのは、23人全員が当事者意識を持ってチームの戦い方について語っているということだ。

 何を当たり前のことを、と思うかもしれないが、23人で臨むW杯では試合に出られない選手も出てくる。ましてや初戦の直前になれば、レギュラー組とサブ組の区分ははっきりしていて、両者の間に温度差が少なからず出てくるものだ。

 ところが、西野ジャパンでは、そういう感じがしない。

 パラグアイ戦で西野ジャパン初出場となった植田がラインコントロールについて自身の考えを詳しく語ったり、吉田麻也や槙野智章とも入念にコミュニケーションを取っていることを明かせば、パラグアイ戦を欠場した大島も初戦の向かい方について、自身の考えをはっきりと口にする。23人の間に温度差をまったく感じないのだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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